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アミール・レザ・コヘスタニ/メヘル・シアター・グループ [Hearing]|藤原聡

アミール・レザ・コヘスタニ/メヘル・シアター・グループ
[Hearing]
Amir Reza Koohestani / Mehr Theatre Group
Hearing

2019年10月25日 京都府立府民ホール “アルティ”
2019/10/25 Kyoto Prefectural Citizens’ Hall ALTI
Reviewed by 藤原聡(Satoshi Fujiwara)
Photos by Kai Maetani
写真提供/KYOTO EXPERIMENT 2019 事務局

【クレジット】        →foreign language
作・演出・舞台美術:アミール・レザ・コヘスタニ
演出助手:モハマッド・レザ・ホセインザデ
出演:モナ・アフマディ、アイナーズ・アザルフッシュ、エルハム・コルダ、マヒン・サデリ
映像:アリ・シェルホダーイ
音楽・音響:アンキード・ダラシュ
照明:サバ・カシミ
舞台美術アシスタント:ゴルナズ・バシーリ
衣装・小道具:ネガル・ネマティ
衣装アシスタント:ネガル・バグリ
セカンドアシスタント:モハマッド・ハシカサリ
舞台監督:モハマッド・レザ・ナジャフィ
制作:モハマッド・レザ・ホセインザデ、ピエール・レイス
カンパニー・ツアーマネージャー:ピエール・ レイス
製作:メヘル・シアター・グループ
共同製作:バティ―ジュネーヴ・フェスティバ ル、クンストラーハウス・ムーゾントゥルム(フランクフルト)、ボザール―Centre for Fine Arts Brussels

 

今回が3度目の来日だというイランの脚本家・演出家のアミール・レザ・コヘスタニ。名前は知っていた筆者だが、この度その作品『Hearing』を観た。本作は2014年10月から2015年3月のシュトゥットガルトのAkademie Schloss Solitudeでのレジデンシー滞在中に書き上げられた作品ということだが、2015年8月の初演以来今回のKYOTO EXPERIMENTで100回目を迎えるそう。コヘスタニは本作の公演は今回が最後だろう、と語っている(その意味するところは分からないけれども)。

[Hearing]という題名の通り、本作は聞くことが始まりとなる。男子禁制の女子寮で、サマネはネダの部屋から男の声を聞く。玄関の鍵を預かる立場の女学生(以下短く「鍵」)がこの2人を呼び出して厳しく詰問する―こう書くと話は極めてシンプルなものだ。しかし、コヘスタニの演出はこの話を巧みに断片化あるいは複層化、または演者に装着した小型カメラの映像をリアルタイムで背後のスクリーンに投影することにより、シンプルであると思われたこの話をメタ化して「意図的に複雑にする」。

そもそも、本作において男の声は聞こえない。というよりも声が聞こえたということになっている瞬間から後の詰問でこの演劇は始まるが、声だけ聞こえて姿の見えない「鍵」はサマネとネダをそれぞれ召喚して詰問する。そこでそれぞれは互いの言い分というか弁明を述べるのだが、観客は真実が分からないがゆえに当然2人の立場に立って考えたとしてもしょせんは雲を掴むような話だ。部屋にいたネダ、この部屋から男の声を聞いたというサマネ。実際にいたのかいないのか? 男の姿を見た人は? 声を聞いたのは本当か。最初は1人ずつ登場していたサマネとネダだが、しばらくのちに2人があわせて登場し、その後「2人で時間を下さい」と言ってから舞台を降り、それぞれに装着した小型カメラが実際の楽屋やらステージ袖、ロビーをスクリーンに投影する。あるいはサマネが再登場するといきなり中年の女性になっていて同じやりとりを反復する。ネダが「鍵」に憑依する。時系列ではっきりとは覚えていないのだが、かように話はホラーでもありミステリーでもあり、そして形式的にも視覚的にも一見禁欲的でありながらこの演劇は内部で完結せずに外部に向かって開かれている。これは解釈の多様性ということにも繋がるし、もっと言えば表象による表象不可能性の問題にも繋がるように思える。作品の中心にある仕組まれた空虚。

本作はキアロスタミの『ホームワーク』にインスパイアされたと語るコヘスタニで、なるほどそれは腑に落ちたのだけどもそれよりも筆者が思い出したのがコヘスタニと同じイランの映画監督であるアスガー・ファルハディの映画『セールスマン』で、これは夫の留守中に妻が何物かに襲われるのだが、これにまつわるあらゆる事象がまるで画面に明示されないし人物によって決定的な形で示されない。ストーリーとされているものと描き方の乖離。何を信じればよいのか。

[Hearing]と『セールスマン』、ここにイラン特有の問題系を見出すことは可能だろうか。平たく言えば女性差別/弱者の問題、これにまつわる隠蔽の構造。これらを表象芸術でどう作品化するのか。実際に事件が起こった(ということになっている)のかどうかが問題なのではなく、その事件の周囲を旋回するもって回った表象がそのまま社会/演劇/映画批評となっているということ。

[Hearing]、1度見たのみで正直に申し上げて覚えていない細部も多々あるだろう、しかしその限りにおいて考えたことを書き留めておいた。

(2019/11/15)


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[Credits]
Text & Direction:Amir Reza Koohestani
Assistant Director:Mohammad Reza Hosseinzadeh
Performers: Mona Ahmadi, Ainaz Azarhoush, Elham Korda, Mahin Sadri
Video:Ali Shirkhodaei
Music & Sound:Ankido Darash
Light Design:Saba Kasmaei
Stage Design:Amir Reza Koohestani assisted by Golnaz Bashiri
Costume & Props:Negar Nemati
Second Assistant:Mohammad Khaksari
Stage Manager:Mohammad Reza Najafi
Costumes Assistant:Negar Bagheri
Production Managers:Mohammad Reza Hosseinzadeh and Pierre Reis
Company & Tour Manager:Pierre Reis
Produced by Mehr Theatre Group
Coproduced by La Bâtie – Festival de Genève, Künstlerhaus Mousonturm Frankfurt am Main, BOZAR – Centre for Fine Arts Brussels