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ベルリン古楽アカデミー×ソフィー・カルトホイザー|藤堂清

ベルリン古楽アカデミー×ソフィー・カルトホイザー(ソプラノ)
Akademie für Alte Musik Berlin & Sophie Karthäuser(Sop)

2019年9月29日 トッパンホール
2019/9/29 Toppan Hall
Reviewed by 藤堂 清(Kiyoshi Tohdoh)
Photos by 林喜代種(Kiyotane Hayashi) 撮影:9/30武蔵野市民文化会館

<出演者>             →foreign language
ベルリン古楽アカデミー
ソフィー・カルトホイザー(ソプラノ)(*)
クセニア・レフラー(バロックオーボエ、リコーダー)(**)
ベルンハルト・フォルク(コンサートマスター)

<曲目>
J.B.バッハ:管弦楽組曲第1番 ト短調
C.P.E.バッハ:オーボエ協奏曲 変ロ長調 Wq164[独奏:クセニア・レフラー](**)
—————–(休憩)—————–
ヘンデル:カンタータ《愛の妄想-あの宿命の日から》HWV99(*)(**)
————–(アンコール)————–
ヘンデル:オペラ《ジュリオ・チェーザレ》より
  クレオパトラのアリア〈つらい運命に涙は溢れ〉’Piangerò la sorte mia'(*)

 

ベルリン古楽アカデミーの3年ぶりの来日。今回は名古屋、兵庫、東京で4公演行ったが、すべて同じプログラム。
中でも注目されるのは、ヘンデルのイタリア時代に書かれたカンタータ《愛の妄想-あの宿命の日から》、40分近くかかる大曲である。ベルギーのソプラノ、ソフィー・カルトホイザーが歌った。
前奏冒頭のオーボエのひなびた音色、引き継ぐヴァイオリン、そして両者が重なり、ついでオーボエ、ヴァイオリンのソロが互いに追いかけるように続く。冒頭に戻り繰り返す部分では、オーボエの技巧的な装飾音に惹きつけられる。
カルトホイザーの声は厚みのあるもの、低音域から高音域まで均質な響きを持つ。レチタティーヴォの一つ一つの単語が明瞭に、そして脚韻をはっきりとわかるように歌っていく。アリアでは同じ部分の繰り返しがあるが、歌詞の内容により強調するところを変えるなど、表情が単調にならないように配慮していた。
オーボエや、持ち替えで吹いたリコーダーには細かい音形があり、名手クセニア・レフラーがその技術の高さをみせた。
一方、アリアにおけるヴァイオリンに要求される技巧もなかなかのもの。作曲当時ヴァイオリンの名手として知られていた、アルカンジェロ・コレッリが弾いたという説もある。コンサートマスターのベルンハルト・フォルクが役割を見事に果たした。
ソプラノ、オーボエ、ヴァイオリン、三者が持ち味を発揮。バッソ・コンティヌオとして加わるチェンバロ、リュート、バスーン、チェロの連携もよく、自分につれなくした恋人が亡くなったあと彼を追って冥界まで行くという、このカンタータの世界を描き出した。

後半の充実に較べると、前半の二曲では課題が感じられた。
一曲目の作曲家ヨハン・ベルンハルト・バッハは、大バッハの又従兄あたる。1676年に生まれ1749年に亡くなっている。アイゼナハのオルガニスト兼宮廷楽師として活躍したとのこと。彼の作品はほとんど失われたが、4曲の管弦楽組曲が大バッハの楽譜庫から見つかり、いまも演奏されている。弦楽とバッソ・コンティヌオの編成で、第1ヴァイオリンがソロを弾く部分が多い。
ここでもフォルクがその役にあたったのだが、この時は音程のブレや音ムラもあり、感心しなかった。
ほぼ同時代を生きた大バッハの作品を思い起こすと、演奏もだがそれ以上に曲の弱さとうけとめてしまう。

二曲目は、C.P.E.バッハの〈オーボエ協奏曲変ロ長調〉。作曲者のC.P.E.バッハは大バッハの次男、1714年に生まれ1788年に亡くなっている。没年はモーツァルトとほぼ同じであり、1765年の作品であるこの曲は、ずいぶん古典派に近い作風となっている。
オーボエのソロはレフラーで、バロック・オーボエの響きは体に自然に溶け込んでくる。それを支えるオーケストラのパートが、ハイドン、モーツァルトのような表現にはいたっておらず、音の多様性という点で弱さがみえる。

だが、ベルリン古楽アカデミーが今回の来日でこのような選曲をしたのは何故だろう?(訂正
C.P.E.バッハのCDを売り出しているので、そのプロモーションのため?
J.B.バッハの作曲活動が見直され、管弦楽組曲の評価が高まってきているから?
プログラムノートに長木誠司氏が「大バッハの周囲を巡りながら、それに直接触れることなく1700年代の音楽のジャンルと時代を違えた変遷と多様性を透かして聴かせてくれるような3曲」と書かれている。そのとおりなのだろう。が、受け止める側がそれを理解し、演奏者と同じレベルで感じ、考えることを求められても難しいのではないか。
筆者自身は、今回提示された「大バッハの周囲」の幅をもう少し拡げて行ってみたいと思う。

ヘンデルの後、鳴りやまない拍手に応え、カルトホイザーの歌で、クレオパトラのアリア〈つらい運命に涙は溢れ〉が歌われた。よく知られた曲、それを歌手も器楽奏者も情感たっぷりに演奏。終わり良ければすべて良し。

(訂正)読者の方からのご指摘で気付きました。この部分の作曲家名を逆に書いており、文意が通じなくなっておりました。

(2019/10/15)

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<Performer>
Akademie für Alte Musik Berlin
Sophie Karthäuser, soprano(*)
Xenia Löffler, barockoboe,recorder(**)
Bernhard Forck, concertmaster

<Program>
Johann Bernhard Bach: Overture Suite No.1 in G minor
Carl Philipp Emanuel Bach: Concerto for Oboe in B flat major Wq164(**)
—————–(intermission)—————–
Händel: Cantata “Il delirio amoroso – Da quel giorno fatale” HWV99(*)(**)
——————–(Encore)——————–
Händel: “Giulio Cesare in Egitto” HWV17
  Aria di Cleopatra ‘Piangerò la sorte mia'(*)