王子ホール transit Vol.11 ノトス・カルテット|藤堂清
transit Vol.11 ノトス・カルテット
transit Vol.11 Notos Quartet
2019年7月5日 王子ホール
2019/7/5 Oji Hall
Reviewed by 藤堂 清(Kiyoshi Tohdoh)
Photos by 林喜代種(Kiyotane Hayashi)
<演奏> →foreign language
ノトス・カルテット
シンドリ・レデラー(ヴァイオリン)
アンドレア・ブルガー(ヴィオラ)
フィリップ・グラハム(チェロ)
アントニア・ケスター(ピアノ)
<曲目>
バルトーク:ピアノ四重奏曲 ハ短調 Op.20, Sz9
ブライス・デスナー:エル・チャン
———————(休憩)——————–
ブラームス:ピアノ四重奏曲 第1番 ト短調 Op.25
——————(アンコール)—————–
クライスラー:愛の悲しみ
ノトス・カルテットは2007年創設のピアノ四重奏団。有望な若手演奏家を紹介するシリーズとして王子ホールが行っているtransitの第11回目のコンサート。
この編成の常設の団体としては、1995年にカールスルーエ音大出身の4人が結成したフォーレ四重奏団が有名だが、世界的に見てもあまり多くはない。楽曲の数が弦楽四重奏曲と較べると圧倒的に少ないことが理由であろうが、全体の中で他の弦楽器に対しピアノのウェイトが大きいこともグループ活動をむずかしくする要因と考えられる。ノトス・カルテットはフォーレ四重奏団より10年ほど若い演奏家のグループ、創立時のメンバーで残っているのは、ヴァイオリンのレデラーとピアノのケスターの二人であるが、アンサンブルの中核となって全体のバランスをとっているのは一番最近加入したヴィオラのブルガーというのが面白い。
1曲目のバルトークのピアノ四重奏曲ハ短調は彼が17歳のときの作品。未出版で楽譜も紛失、それをノトス・カルテットのメンバーが発見し、世界初録音を実現した。この日が日本初演である。
曲自体はブラームスを思わせる和声や節回しがあちこちで聴かれるもので、後年の弦楽四重奏曲のような緊迫感は感じられない。ピアノの扱いに後年のバルトークを思わせるところもあり、テンポやリズムに工夫はみられるが、全体としては習作の域をでないというのが正直なところ。作曲者が「ブラームスをよく勉強しました。」という印象の作品。
カルテットが発見したという事情もあり、彼らの思い入れは強いのだろうが、音楽の熱量が上がらないまま終わった。
2曲目の作曲家ブライス・デスナーは、アメリカのインディー・ロック・バンド「The National」のリード・ギタリスト。《エル・チャン》は7つの部分から構成されており、ピアノ四重奏または二台のピアノのための作品。ラベック姉妹による録音はあるが、ピアノ四重奏によるものの方が、音色の多様性、ピアノとヴァイオリン属との音の出方や減衰の仕方といった違いがあり、表情の幅が大きいように感じた。
リズムの複雑さや弦楽器のいろいろな奏法など、彼らが楽しんで弾いており、それが会場にも伝わってきた。
後半はブラームスのピアノ四重奏曲第1番ト短調。
このジャンルの代表作といってもよい作品だけに、第1楽章から全員がダイナミクスの幅を大きくとって音楽に没入していく。
第4楽章のハンガリー舞曲風の曲想での勢いのある流れ、そして動きをピタリと合わせていくところなど、聴きごたえ十分。
前半では、ピアノはクールに落ち着いていると感じていたのだが、この曲では自身で踏み込んだ表情を付け、弦楽器を引っ張るところもあった。
今の時点のノトス四重奏団は、フォーレ四重奏団の背中を追っているという評価になる。現メンバーになってほぼ4年、次第に団体としてのまとまりが出来てきているのだろう。これからの成長を見守りたい。
(2019/8/15)
〈Performer〉
Notos Quartet
Sindri Lederer (Violin)
Andrea Burger (Viola)
Philip Graham (Cello)
Antonia Köster (Piano)
〈Program〉
Bartók: Piano Quartet in C minor, Op.20, Sz9
Bryce Dessner: El Chan
————–(Intermission)————–
Brahms: Piano Quartet No.1 in G minor, Op.25
——————(Encore)—————–
Kreisler: Liebesleid