東京交響楽団 第672回 定期演奏会 リゲティ《レクイエム》|藤堂清

東京交響楽団 第672回 定期演奏会
Tokyo Symphony Orchestra, Subscription Concert Series No.672 

2019年7月20日 サントリーホール
2019/7/20 Suntory Hall 
Reviewed by 藤堂 清(Kiyoshi Tohdoh)
Photos by 林喜代種(Kiyotane Hayashi) 

<演奏>              →foreign language
指揮:ジョナサン・ノット
ソプラノ:サラ・ウェゲナー
メゾソプラノ:ターニャ・アリアーネ・バウムガルトナー
合唱:東響コーラス
合唱指揮:冨平恭平
管弦楽:東京交響楽団

<曲目>
J.シュトラウスⅡ:芸術家の生涯 op.316
リゲティ:レクイエム
——————–(休憩)——————–
タリス:スペム・イン・アリウム(40声のモテット)
R.シュトラウス:死と変容 op.24

 

ジョナサン・ノットのリゲティ作品の指揮は、作曲家自身から高い評価を得ていたというが、そのリゲティの《レクイエム》で、生と死をめぐる人間の気持ちを精緻に描き出した。
まず、この曲での東響コーラスの精度の高い合唱に賛辞をおくりたい。
曲は20世紀に書かれたレクイエムとしてはめずらしく典礼文を用いている。前半部分、IntroitusからLacrimosaまでに付曲され、ソプラノ、メゾソプラノ、アルト、テナー、バスの5声部が、それぞれ4つのパートに分かれて歌う。声部のなかでも、音の高さ、歌いだすタイミング、テンポは異なる。近い音域で入り乱れ、ぶつかり合い、ハーモニーではなくけんか腰の論争のように聴こえることすらある。個人個人がよほどきちんと音が取れていないと歌えないだろう。この日は120人の編成、この合唱団のポリシーに従い暗譜で歌った。アマチュアというのだから、各人の努力も大きいだろうが、パートごとや全体での練習など、どうやって時間を合せたのだろうかと気になってしまう。
この曲で大変なのは合唱だけではない。2人のソリスト、ソプラノは高音の強い声を要求される。メゾソプラノは、高い音から低い音へ2オクターヴ近く飛ばなければならない。ソプラノのサラ・ウェゲナー、メゾソプラノのターニャ・アリアーネ・バウムガルトナーの二人、ともに曲の要請によく応えていた。
オーケストラも木管パートを筆頭にすみずみまで神経の行き届いた音を聴かせてくれた。
この日のメインはこの曲。ダイナミクスの大きさは実演でなければ感じ取れないものであった。

プログラムは、J.シュトラウスⅡの《芸術家の生涯》で始まる。導入部の暗い響きに胸を突かれる。プロイセンに敗れた直後という時代を想定してか、ワルツに入っても心はずむ音楽とはならない。重苦しい空気に支配された演奏。リゲティの曲につなげるという意図はあっただろうが、生と死の対比のなか、より死を感じさせた。

後半は、16世紀のイギリスの音楽家トマス・タリスの《スペム・イン・アリウム》で始まる。これは、ソプラノ、アルト、テナー、バリトン、バスの5声部の8組の合唱で歌われるア・カペラの曲。サントリーホールのP席の幅全体を使って配置され、組ごとの歌が呼び合い、響き合いする様は興味深いものであった。
120人が同時に強声で歌うと、ホール全体が響きで埋め尽くされ、聴いているものの体全体が共鳴するようであった。

オーケストラは後半のはじめから着席し待機している状態であったので、そのまま《死と変容》へ入っていくだろうと思っていたら、ノットは振り向き、拍手を受け一旦舞台をおりた。オーケストラはチューニングをして、再開。
演奏は熱演であるが、テンポの変化やダイナミクスの取り方が大雑把になる部分もあったりで、リゲティのときほど感銘は受けなかった。
この曲はR.シュトラウスが25歳のときの作品、いかに早熟とはいえ、「死」にどれほど実感をもっていただろうか。同じ作曲家の作品でも、他の選択肢がありえたのではないかとも感じた。

この数日前にあった京都アニメーションに対するテロと、それによる理不尽な死をおもう演奏会。

(2019/8/15)

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〈Performer〉
Conductor : Jonathan Nott
Soprano : Sarah Wegener
Mezzosoprano : Tanja Ariane Baumgartner
Chorus : Tokyo Symphony Chorus
chorus master : Kyohei Tomihira
Orchestra :Tokyo Symphony Orchestra

〈Program〉
J.Strauss II : Künstlerleben, op.316
Ligeti :Requiem
T.Tallis : Spem in alium
R.Strauss : Tod und Verklärung, op.24