モルゴーア・クァルテット 第48回定期演奏会|西村紗知

モルゴーア・クァルテット 第48回定期演奏会
Morgaua Quartet #48 SUBSCRIPTION CONCERT

2019年7月3日 会場 浜離宮朝日ホール
2019/7/3 Hamarikyu Asahi Hall
Reviewed by 西村紗知(Sachi Nishimura)
写真提供:ミリオンコンサート協会

<演奏>        →foreign language
モルゴーア・クァルテット:
荒井英治、戸澤哲夫(ヴァイオリン)、小野富士(ヴィオラ)、藤森亮一(チェロ)

<曲目>
佐藤聰明:夜へ
H. グレツキ:弦楽四重奏曲 第1番「すでに日は暮れて」
J. コリリアーノ:弦楽四重奏曲(1995)
アンコール曲
M. ラヴェル:《マ・メール・ロワ》より 妖精の園

 

夜になったら、有象無象の存在が騒ぎ出す。これは姿を見せず、あるいはまた音をたてることすらないものもいる。なにも霊的なものを想像する必要はない。都市生活から遠く離れた地では当然のことだ。人々が眠りについた後のこと、田んぼに水が張られている時期はずっとそうで、そもそも昼にあくせく活動する存在なんて人間くらいのものではないのか。
モルゴーア・クァルテットの定期演奏会、今回のテーマは「夜」。フライヤーには「今宵は、夜鳴きモルゴーア。」とも書かれている。どのようにして「夜」を聞かせることになるのか、高まる期待と共に会場へ向かう。

じっとりとした湿度の高い和音と共に、夜の帳が下りる。佐藤聰明〈夜へ〉は、内容的にも音響的にもシェーンベルク〈浄夜〉を想起させるところがありつつ、実際にはそれとは全く異なる地平を目指している。〈浄夜〉が人間の内側へ刃のように迫っていく作品だとして、〈夜へ〉はもっと外側へ向けて、緩慢に拡散していく。物語の筋を取っ払って、構造よりテクスチャーを聞かせることに終始している。夜のなんたるかを語ったり、夜というものに象徴的な意味合いを込めるのでもない。夜の空気をそのまま聴衆に向けて送り込むのである。モルゴーアによる成熟したアンサンブルはこのことをよく心得ているように思えた。演奏会の一曲目という緊張した局面であるにも関わらず、ぼうっとした響きで会場を満たしたのである。マットな質感のフォルテが心地いい。ノンビブラートで徒然に4人がそれぞれ音をのばし続ける場面など、しどけないことこの上ない。それはちょうど、洗いざらしの麻のシーツの折じわを、まどろみながら足先でまさぐるような感覚である。

緩慢に拡散した夜の空気は、緊張感の伴う変奏によって、一気に収縮する。グレツキの弦楽四重奏曲では、ユニゾンで粗野にかき鳴らされる空5度のモチーフと、タイトルにも付されている「すでに日は暮れて」というポーランドの古歌とが、互い違いに奏でられて音楽は進んでいく。古歌は小声で囁くようであるが、これを取り巻く独特のコントラプンクトによって邪魔されて、聴衆にまっすぐ届かない。それに空5度のモチーフが進むにつれ次第に増長してざんざか降りの雨のようになるので、ただでさえかほそい古歌が遠くに追いやられてしまう。こうしたドラスティックな対立が絶えずこの作品を支配している。個人的な好みで言えば、モルゴーアのアンサンブルはいくらか洗練されすぎていたように思える。間合いが豊かで少しヌケ感のある洒脱な彼らのアンサンブルは、グレツキの作品の単調なれど息の詰まるようなニュアンスに対して、ほんの少しミスマッチだった。

反対に、ドラスティックな性格をもっていても、あくまでも都会的な風貌を崩さないコリリアーノの弦楽四重奏曲の方が、モルゴーアのアンサンブルの利点をよく引き出していた。第1楽章における消音器付きで奏でられる生々しい微分音も、第2楽章の入りで展開される、和音の連続とスケルツァンドな音型の対比であっても、スタイリッシュにまとまるのである。第3楽章ではようやく、聴衆はナイチンゲールらしい夜鳴きを聞くが、第4楽章になると、この日で一番緻密な構造体、フーガが立ち現われる。この主題は3度ずつ下りていくような音型が特徴で、これが第5楽章のドップラー効果のようにも聞こえる、3度がグリッサンドでだんだん下っていくパッセージにつながっている。これは終わりに近づくにつれて息絶えていくように、また最初の生々しい微分音に変容していくのであった。

洗練された響きで「夜」の世界を駆け巡ったモルゴーア・クァルテット。最後は《マ・メール・ロワ》の終曲「妖精の園」で聴衆を昼の世界へと戻していく。やっぱりプログレを演奏する回にも足を運ばなければ、と思いつつ会場を後にした。

(2019/8/15)


—————————————
<Artist>
MORGAUA QUARTET
Eiji ARAI, Tetsuo TOZAWA(Vln.), Hisashi ONO(Vla.), Ryoichi FUJIMORI(Vc.)
<Program>
S. SATOH:Toward the Night
H. Górecki:String Quartet No.1(”Already It Is Dusk”)
J. Corigliano:String Quartet(1995)
(encore)
M. Ravel:Ma mère l’oye “Le jardin féerique”