日本の現代音楽、創作の軌跡 第1回「生誕90年~1929年生まれの5人」|齋藤俊夫

日本の現代音楽、創作の軌跡 第1回「生誕90年~1929年生まれの5人」
Imprints of Japanese Contemporary Music Vol.1 Five composers boin in 1929

2019年7月12日 東京オペラシティリサイタルホール
2019/7/12 Tokyo Opera City Recital Hall
Reviewed by 齋藤俊夫(Toshio Saito)

<演奏>        →foreign language
プロデュース/お話:池辺晋一郎
ピアノ:野平一郎
弦楽四重奏団:古典四重奏団(1stVn:川原千真、2ndVn:花崎淳生、Va:三輪真樹、Vc:田崎瑞博)
指揮:キハラ良尚
ヴァイオリン:成田達輝
チェロ:山澤慧
コントラバス:黒木岩寿
フルート:木ノ脇道元
オーボエ:荒木奏美
クラリネット:亀井良信
ファゴット:福士マリ子
ホルン:日橋辰朗
トランペット:辻本憲一
トロンボーン:古賀光
パーカッション:安江佐和子

<曲目>

湯浅譲二:『7人の奏者のためのプロジェクションズ』(1955/56)
  Fl/Picc, Ob, Cl/bass Cl, Hr, Tp, Vc, Pf, Cond
矢代秋雄:『弦楽四重奏曲』(1955)
  String Quartet
松村禎三:『アプサラスの庭』(1971/75)
  Fl, Vn, Pf
間宮芳生『ヴァイオリン、ピアノ、打楽器とコントラバスのためのソナタ』(1966)
  Vn, Cb, Pf, Perc
黛敏郎:『10楽器のためのディヴェルティメント』(1948)
  Fl, Ob, Cl, Fg, Hr, Tp, Tb, Vn, Cb, Pf, Cond

 

湯浅譲二『7人の奏者のためのプロジェクションズ』、能などの「いよー!」の掛け声のような強烈な不協和音による第1曲の出だしから、力強い、しかし西洋クラシック音楽とは明らかに異なる世界が広がる。謡を模倣した部分や、絵巻物的展開などはあるが、ヴェーベルンやメシアンなしに現れなかったであろう本作品を「日本」という括りだけに縛り付けてしまうのも違和感がある。湯浅譲二という音楽史上の特異点的才能による、東西を超えた音楽世界の始まり、そう評価したい。キハラ良尚の指揮による演奏は輪郭、メリハリを非常に強くとった鮮烈なものであった。

矢代秋雄『弦楽四重奏曲』、彼の作品の際立って精緻なエクリチュールは言わずもがなであるが、それに対して今回の演奏はあまりに刃先が鈍かった。四重奏のどこの部分でどの楽器が前に出て、どれが後ろに引くかなど、作品構造の解析が足りていなかった感が最後まで大きく、靄のかかった矢代となってしまった。残念と言わざるを得ない。

松村禎三『アプサラスの庭』、今度は各楽器の音量のバランスを中心とした意思疎通が出来ていない。特に野平一郎のピアノが他を圧して音量が大きく、彼が弾くと彼の音しか聴こえず、彼が弾かないと他の二人が丁度よくアンサンブルする。確かに本作は観念的なエネルギーという一見矛盾したものを内包する音楽ではあるが、音楽的エネルギーの独り相撲をされては困る。

間宮芳生『ヴァイオリン、ピアノ、打楽器とコントラバスのためのソナタ』、ヴァイオリンとピアノが拮抗した、東北民謡に材をとった第1楽章のエネルギーは流石であったが、第2楽章以降に、ジャズと民謡の「足の裏からのリズム」が感じられない。特に野平のピアノが、ジャズ的に言えばスィングしておらず、民謡的に言えばモダナイズされすぎている。言わば「肩から上の音楽」と化していたのだ。もっとベタついた、汗臭い間宮の音楽を、と思わざるを得なかった。

黛敏郎『10楽器のためのディヴェルティメント』、敗戦3年後にこの垢抜けた音楽が書かれたことが少々信じられない思いだが、黛のエンターテナー的「あざとさ」もまた感じられた。しかしその「あざとさ」もまた彼と本作の持ち味。キハラ良尚の指揮は聴かせるべきパートをテキパキと前に出し、特にメロディーとリズムをはっきりと、いや、いっそ「派手に」聴かせる。それで良い。貶しているのではなく、黛の音楽は躊躇なく弾き、聴かせ、それでいて全体の統率を取る、こうでなければならない。爽快かつ痛快な気分で演奏会の最後を楽しんだ。

ある作品、ある作曲家の真の姿を再現するとは、その楽譜を機械的になぞるだけではなく、その作品が内包する世界を共有せねばならない。今回のいささかチグハグな演奏は、練習期間というものもあるかもしれないが、作品・作曲者と演奏者の「共有する世界」のズレが時代の経過と共に大きくなってきたことの現れかもしれない。だが、それゆえにこそこのシリーズの意義は一層深まるというものであろう。次回以降も是非足を運びたい。

(2019/8/15)

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<players>
Produce/Talk:Shin-ichiro Ikebe
Pf:Ichiro Nodaira
String Quartet: Quartetto Classico(1stVn:Chima Kawahara, 2ndVn:Atsumi Hanazaki, Va:Maki Miwa, Vc:Mizuhiro Tasaki)
Cond:Yoshinao Kihara
Vn:Tatsuki Narita
Vc:Kei Yamazawa
Cb:Iwahisa Kuroki
Fl:Dogen Kinowaki
Ob:Kanami Araki
Cl:Yoshinobu Kamei
Fg:Mariko Fukushi
Hr:Tatsuo Nippashi
Tp:Kenichi Tsujimoto
Tb:Hikaru Koga
Perc:Sawako Yasue

<pieces>
J.Yuasa:Projections for Seven Players(1955/56)
  Fl/Picc, Ob, Cl/bass Cl, Hr, Tp, Vc, Pf, Cond
A.Yashiro:Quatour à cordes(1955)
  String Quartet
T.Matsumura:Courtyard of Apsaras(1971/75)
  Fl, Vn, Pf
M.Mamiya:Sonata for Violin,piano,percussion and contrabass(1966)
  Vn, Cb, Pf, Perc
T.Mayuzumi:Divertimento pour 10 instruments(1948)
  Fl, Ob, Cl, Fg, Hr, Tp, Tb, Vn, Cb, Pf, Cond