いまいけぷろじぇくと(今村俊博x池田萠)第九回パフォーマンス・デュオ公演《全景》|齋藤俊夫
いまいけぷろじぇくと(今村俊博x池田萠)第九回パフォーマンス・デュオ公演《全景》
Imaike Project (Toshihiro Imamura x Moe Ikeda) 9th performance duo 《全景》
2019年7月15日 SOOO dramatic!
2019/7/15 SOOO dramatic!
Reviewed by 齋藤俊夫(Toshio Saito)
写真提供:いまいけぷろじぇくと
《曲目・演奏》 →foreign language
今村俊博:『トイピアノのためのコンポジションI』(2015)
トイピアノ:今村俊博
今村俊博:『Po(se)-tsunen III』(2014)
ヴァイオリン:亀井庸州
今村俊博:『数える人III』(2017)
パフォーマー:今村俊博
今村俊博:『Po(se)-tsunen IV』(2017)
トロンボーン:青木昂
池田萠:『いちご香るふんわりブッセ/うさぎのまくら クリーム金時』(2018)
パフォーマー:今村俊博、青木昂
今村俊博:『いったり、きたり』(2019/初演)
トロンボーン:青木昂、ヴァイオリン:亀井庸州
今村俊博:『 同じ世界を生きてはいない―2人あるいは3人のための―』(2016)
トロンボーン:青木昂、ヴァイオリン:亀井庸州、トイピアノ:今村俊博
藤元高輝:『そぼろ』(2013)
パフォーマー:今村俊博、青木昂、亀井庸州
アフタートーク:今村俊博、佐々木敦(ゲスト)
自らの身体の限界に挑む、それは「スポーツ」としてならいたるところで見受けられ、そして称賛される。だが、全く称賛されない形で「ただひたすらに自分の身体に負荷をかけ続ける」ことになんの意味があるのだろうか?いや、多分ない。だが、その行為に「意味がないがゆえに面白い」ことを今回知った。
今村俊博『数える人III』、ものすごく平たく言うと「一定のテンポで数を数えながらスクワットを続ける」だけのパフォーマンスである(細かく言うと、数えるのを撹乱するためにしゃがんだ時に紙に書いた数式の計算もする)。これまでのいまいけぷろじぇくとでは池田萠が上演するのが定番であったが、今回は初の自作自演とのこと。今村の膝は「クキィッ」と鳴り、思わず「ぁ痛てっ」と叫ぶ。そこまでして何故スクワットを続けるのか。皆目意味はない。観客は多分にサディスティックな喜びとバカバカしき感動に満ちて「いつまで続けるのだ」と見つめ、150回で無事(?)終演するのを見届けた。これは一体何だったのか?そんなことはわからなくとも筆者は笑いをこらえきれなかった。
池田萠『いちご香るふんわりブッセ/うさぎのまくら クリーム金時』、今村が「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響あり(略)ただ風の前の塵に同じ」と平家物語の冒頭を反復していると、青木が野菜ジュース、クレープ、クリーム鯛焼き、抹茶プリンを今村の口に運び、今村はそれを飲み食いし、飲み込んだ後で食べたものの名称(それぞれ正式名称は非常に長い)を読む。また平家物語の続きを暗唱すると、青木が食べ物を口に運び……以下食べ終わるまで同様。当然のことながら、これだけの甘いお菓子を食べ続けるのは相当につらい。しかも平家物語は暗唱しなければならない。終盤は口に入れたものを噛むのも飲み込むのも苦しそうであった。だから何だ?そんなことはわからなくとも筆者は笑いをこらえきれなかった。
「これは何か?」「これにはなんの意味がある?」そのような問いかけに逆ねじを食らわせるがごとき「無意味に徹する」ことの面白さを突き付けられた。
上述の2作品の異常(な可笑し)さが強烈であったが、他作品は論理的に設計された迷路的作品群。
『トイピアノのためのコンポジションI』はごく短いが全く無駄の無い小品5曲。
『Po(se)-tsunen III』は作曲者が作ったルール(何秒以内に何回音を出す、といった)に基づいて奏者が譜面を作り、それを12回正確に反復して終曲。
『いったり、きたり』はトロンボーンとヴァイオリンが長い長いユニゾンから微分音的にじわじわとずれていき、そこから両者グリッサンドで上下して大きく離れたりすれ違ったり。トロンボーンにポジションは違うが同じ音を出すという「負荷」をかけたりしつつも、最後はロングトーンで両者とも一件落着。
『同じ世界を生きてはいない』は『Po(se)-tsunen III』と同じく作曲者が作ったルールに基づいて3名の奏者が独自に小節数の違う譜面を作り、そしてその譜面を延々と反復して、小節数のずれが揃った所で終曲。
なるほど、冒頭に挙げた2作品の無意味さ(しかしこれらにも論理的な計算が含まれているのは無論だが)とはかけ離れた理屈っぽさである。だが、この理屈が理屈に留まって、問答無用の説得力に至っていない嫌いはある。「負荷」「反復」といった要素が音楽的に響いてこない、あるいは、何か「過剰」なものが不足している言えば良いだろうか。
しかし、『Po(se)-tsunen IV』の、トロンボーンのスライドの先端を床に置いて、(またしても)スクワットの要領でポジションを変化させて一曲見事に演奏させたのにはしてやられた。まずは青木昂の技量と体力に感嘆し、また今村にとって「身体」というものが持つ「過剰さ」がパフォーマンスと融合した時に最上のものができる好例ではないだろうか。
最後はギタリストである藤元高輝作品『そぼろ』、これもおそらく何かのアルゴリズムに従って「そ」「ぼ」「ろ」「そぼろ」「そぼろ」「そぼろ」「そぼろそぼろそぼろそぼろおおおおお」「そ」「そ」「そ」「ろ」「ぼ」「そ」「そ」「ぼ」etcと三人で「そぼろ」という単語を分解して発声し、最後は今村と青木が舞台から去って、亀井が空を仰いで「そぼろ・・・」とつぶやいて了。
意味と無意味の境界を文字通り体を張って探る、大変興味深く、また一見バカバカしい中にギロリとしたものを含んだ公演であった。
(2019/8/15)
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<pieces&players>
Toshihiro Imamura:Composition I for Toypiano
ToyPf:Toshihiro Imamura
Toshihiro Imamura:Po(se)-tsunen III
Vn:Yoshu Kamei
Toshihiro Imamura:『数える人III』
Performer:Toshihiro Imamura
Toshihiro Imamura:Po(se)-tsunen IV
Tb:Kou Aoki
Moe Ikeda:『いちご香るふんわりブッセ/うさぎのまくら クリーム金時』
Performers:Toshihiro Imamura, Kou Aoki
Toshihiro Imamura:『いったり、きたり』
Tb:Kou Aoki, Vn:Yoshu Kamei
Toshihiro Imamura:『 同じ世界を生きてはいない―2人あるいは3人のための―』
Tb:Kou Aoki, Vn:Yoshu Kamei, ToyPf:Toshihiro Imamura
Koki Fujimoto:『そぼろ』
Performers:Toshihiro Imamura, Kou Aoki, Yoshu Kamei
AfterTalk:Toshihiro Imamura, Atsushi Sasaki(Guest)