Folia! スペイン、ポルトガル 15世紀から伝わる情熱と狂喜の音楽|藤堂清
Folia! スペイン、ポルトガル 15世紀から伝わる情熱と狂喜の音楽
Folia ! La musique passionnante de la renaissance occidentale
2019年7月17日 日本福音ルーテル東京教会
2019/7/17 Japan Evangelical Lutheran Tokyo Church
Reviewed by 藤堂 清(Kiyoshi Tohdoh)
Photos by 井上晴一郎 ( Seiichiro Inoue)
<出演者> →foreign language
ソプラノ:高橋美千子
デュシュ・ド・ヴィオール(バロック・ヴァイオリン持替):平松晶子
テノール・ド・ヴィオール:坪田一子
バス・ド・ヴィオール:井上奈緒美、品川聖
パーカッション:立岩潤三
フラメンコ:奥濱春彦(サプライズ・ゲスト)
<曲目> (*…器楽曲)
マレ:フォリアの主題《ヴィオル曲集第2巻》(1701)より *
ル・バイイ:フォリーのパッサカイユ<私は狂気>《エール集第5巻》(1614)より
アテニャン:パヴァーヌ《舞曲集第1巻》(1530)より *
ル・ロワ:私は彷徨い《ギター曲集第2巻》(1555)より
オルティス:レセルカーダ4番《装飾変奏論》(1553)より *
デ・ラ・トーレ:ラ・スパーニャ<ダンサ・アルタ>《王宮の歌曲集》より *
マリン:私を蔑むあなたの瞳《リブロ・デ・トノス・ウマノス》(1655-1656)より
ヴァスケス:何を使って洗いましょう《ソネットとヴィリャンシーコ集》(1560) ———
カレイラ:<何を使って洗いましょう>によるテント《コインブラ大学図書館所蔵写本》より
カベソン:パヴァーヌ《新曲集》(1557)より *
作者不詳:ハカラ<褒めそやす必要はない>《リブロ・デ・トノス・ウマノス》(1655-1656)より
作者不詳:ロドリゴ・マルティネス《王宮の歌曲集》より *
作者不詳:黒い靴を履いてはいけないよ《パリ歌曲集》より
作者不詳:ラ・カーラ・コーサ《国立マルチャーナ図書館所蔵写本》(c.1520)より
プレトリウス:スパニョレッタ《テルプシコーレ舞曲集》(1612)より *
作者不詳: マリサパロス
ファルコニエリ:フォリア《カンツォンその他の舞曲集第1巻》(1650)より *
コレッリ:ラ・フォリア《ヴァイオリン・ソナタ作品5》(1700)より抜粋 *
マチャード:二つの星が太陽に従い《ラ・サブロナラ歌曲集》より
マレ:フォリア《ヴィオル曲集第2巻》(1701)より抜粋 *
プログラムの終盤、器楽曲に高橋美千子がカスタネットで加わる。その乾いた響きが、立岩の多様な打楽器の音色、リズムとともに、新たな表情を生みだす。ふと気が付くとスペイン風の衣装を着た男性が通路を歩いてくる。そのまま舞台に上がり、カスタネットのリズムに合わせるように踵を床に打ち付け、踊る。飛び入りのダンサー奥濱だ。その切れ味するどい動きと、足を踏みならす音。会場が一気にヒートアップする。
「Folia! スペイン、ポルトガル 15世紀から伝わる情熱と狂喜の音楽」というタイトルのコンサート。このフォリアという舞曲、中世の終わりからイベリア半島の庶民の踊りのための伴奏曲として弾かれ歌われてきたものだが、15世紀終わりころから宮廷のポリフォニーのレパートリーとして発展し、イタリアやフランスへも広まっていった。曲のリズムは、基本となるバスライン一音ごとに3拍子の一小節という形へのまとめられていく。18世紀に入るとコレッリ(《ラ・フォリア》)、ヴィヴァルディ、J.S.バッハ(《農民カンタータ》)等がフォリアを用いた作品を残している。
この日は、ソプラノ、4人のヴィオラ・ダ・ガンバ奏者、パーカッションによる演奏。1500年から1700年のほぼ200年間の作品によりプログラムが組まれた。多くがイベリア半島におけるものだが、マリン・マレやコレッリといったそれ以外の作曲家によるフォリアもとりあげられている。器楽のみの曲と歌の入る曲を交互に演奏していく。
高橋の声は、教会いっぱいに響くように歌いあげる、弱声で聴き手を惹きつける、ハスキーな響きで違う雰囲気をつくりだす、といったように多彩な表情をみせる。
歌だけではない。ガンバの前にすくっと立って歌うかと思えば、動きながら方向を変えながら歌う。舞台正面を走り抜け、靴をぬぎすて、座り込み、ささやく。
2曲目に歌われたル・バイイの<私は狂気>の歌詞の一節、「私は狂気、私だけが唯一、皆に喜びも優しさも快楽ももたらすことができるのです。」、そのままに彼女は会場を支配する。
4人のガンバ奏者の作り出す音楽は、情熱、狂喜というよりも、しっかりしたバスのリズムの上に優雅な穏やかな踊りを描く。高橋の歌がそれに寄り添うときもあれば、彼らを挑発するかのように歌われることもある。
両者のぶつかり合いをパーカッションが間に立ち、いなしたり、双方をまとめるように太鼓(正規の名称はわからないが)をたたいたり。その役割は多様。
リハーサルでどこまでつめていたのかわからないが、その場の即興で演奏された部分も多いだろう。演奏者同士の会話が感じられた。
その最たるものが、フラメンコ・ダンサーが加わり演奏されたマレのフォリア。立岩のパーカッションと奥濱の足音との、打楽器による即興演奏。手拍子で加わりたいところだが、リズムの変化についていけない。曲の構造だの、旋律美だのといったことはそっちのけで、かれら二人の世界に引き込まれた。
フォリアという長い歴史を持つ音楽形式、その現代における可能性を十分感じさせてくれるコンサートであった。
楽譜の上では単純に見えるものでも、即興的要素、装飾的要素が加わることで、大きな幅を持つことができる。
近代の音楽でも、「楽譜に忠実」ということばかり強調されがちだが、もっと自由な発想が、作曲家に、その時代に、近づく道として有り得るのではないだろうか?
(2019/8/15)
<Performer>
Soprano : Michiko Takahashi
Dessus de viole (Barock violin) : Akiko Hiramatsu
Tenor de viole : Ichiko Tsubota
Basse de viole ; Naomi Inoue, Hijiri Shinagawa
Percussion : Junzo Tateiwa
Flamenco : Haruhiko Okuhama
<Program> (*…Instrumental Pieces)
Marin Marais : Couplets de folies, 2e livre de pièces de viole, Paris, 1701*
Henry Le Bailly : Passacalle La Folie “Yo soy la locura”, Airs de différents auteurs mis en tablature de luth par Gabriel Bataille, V. Paris, 1614
Pierre Attaingnant : Pavenne, 1er livre de Danceries, Paris, 1530*
Adrien Le Roy : Mes pas semez, 2e livre de Guiterre, Paris, 1555
Diego Ortiz : Recercada quarta sobre La Folia, Trattado de Glosas, Roma,1553*
Francisco De la Torre : La Spagna “danza alta” Cancionero de Palacio, Madrid*
José Marin : Ojos, pues me desdenais, Libro de Tonos Humanos, Madrid, 1655-1656
Juan Vasquez : Con que la lavare, Sonetos y Villancicos, Sevilla, 1560 —-
António Carreira : Tento com Cantus Firmus à Cinco “Con que la lavare”, Coimbra University, Biblioteca geral ms. mus. No.242
Antonio de Cabezón : Pavana con su glosa, Libro de Cifra Nueva, Alcala,1557*
Anonymous : Jácaras “No hay que decir el primor”, Libro de Tonos Humanos, Madrid, 1655-1656
Anonymous : Rodrigo Martinez, Cancionero de Palacio, Madrid*
Anonymous : Nao tragais borzeguis pretos, Cancionero de Paris, Paris
Anonymous : La Cara Cossa, La Biblioteca Nazionale Marciana Ms.Ital. IV, 1227, Venezia, c.1520
Michael Praetorius : Spagnoletta, Terpsichore, Wolfenbüttel, 1612*
Anonymous : Marizapalos
Andrea Falconieri : Folias echa para mi Seňora Doňa Tarolilla de Carallenos, Il primo libro di Canzone, Sinfonie, Fantasie, Capricci, Brandi, Correnti, Gagliarde, Alemane, Volte, Napoli, 1650*
Arcangelo Corelli : La Folia, 12 Violin Sonatas, Op.5 Roma, 1700*
Manuel Machado : Dos estrellas le siguen, Cancionero de la Sablonara, München
Marin Marais : Couplets de folies, 2e livre de pièces de Violes, Paris, 1701*