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フェスタサマーミューザKAWASAKI2019 東京都交響楽団|藤原聡

フェスタサマーミューザKAWASAKI2019 東京都交響楽団
Festa Summer MUZA KAWASAKI 2019 
Tokyo Metropolitan Symphony Orchestra
名匠のガイドで聴くイタリアン・プログラム

2019年7月29日 ミューザ川崎シンフォニーホール
2019/7/29   MUZA Kawasaki Symphony Hall
Reviewed by 藤原聡(Satoshi Fujiwara)
Photos by 林喜代種(Kiyotane Hayashi)

<演奏>        →foreign language
ヴィオラ独奏:鈴木学(ヴォルフ)
東京都交響楽団
指揮:アラン・ギルバート
コンサートマスター:四方恭子

<曲目>
ヴォルフ:イタリア風セレナーデ ト長調(管弦楽版)
レスピーギ:リュートのための古風な舞曲とアリア 第3組曲
レスピーギ:交響詩『ローマの噴水』
レスピーギ:交響詩『ローマの松』

 

もはやクラシック・ファンにとっては夏の風物詩となっている感のある――昨年もこれに類する書き出しだった気がするが――ミューザ川崎シンフォニーホールにおける「フェスタサマーミューザKAWASAKI」。比較的低価格で、そして日本でも屈指の音響効果を誇る同ホールで地方オケを含む様々なオケを短期間で集中的に聴くことができ(しかもゲネプロを公開しているオケもある)、まさに至れり尽くせりといったところだろう。都響においては一昨年のフルシャによる『わが祖国』、昨年のミンコフスキによる『くるみ割り人形』での名演奏はまだまだ記憶に新しいのだが、今年は同オケの首席客演指揮者たるアラン・ギルバートが指揮を執った。まさに磐石の布陣ではないか(余談だが2015年以来なぜ大野和士が登壇しないのだろうか?)。その今年のアラン・ギルバートのコンサートは、アランの提案によるレスピーギをメインとした(当日パンフレットによれば「レスピーギ、どう? いいでしょ?」)イタリア・プログラム。オケのポテンシャルがフルに活かされ、ホールの素晴しさも映える(オルガンも!)。期待を秘めつつミューザ川崎へ。

最初はイタリアはイタリアでもヴォルフが描いたイタリア、そのままの題名『イタリアのセレナーデ』。元々弦楽四重奏のための本作、これをレーガーがヴィオラ独奏を伴う弦楽合奏版に編曲していた、とは今回初めて知ったのだが、これがなかなか愉しい。薄いテクスチュアによって各声部の絡みが精妙に演出された弦楽四重奏版を聴き慣れた耳にとっては弦楽合奏版はどうしても鈍重に聴こえてしまうけれども(特に中間部)、それでも都響の弦楽器群はこの日、いつにも増して緊密な合奏によってしなやかで細密な音色を聴かせ、曲が進むうちに原曲のことはきれいに忘れていた。パート・バランスの浮き沈みもまた卓越している。アランのこうした入念な響きの彫琢がなければ恐らく全体として抑揚のない厚塗りの音響体になってしまっていただろう。鈴木学のヴィオラ独奏も巧みなものだ。

この都響の弦楽器の好調は『リュートのための古風な舞曲とアリア』でも維持される。演奏前のステージから「14型はいかにも大きい」などと想像していたところ、これがまた緻密の極み。とはいえ、小編成での演奏時に感じられる懐古的でしんみりした趣、ではなくまるでドヴォルザークの弦楽セレナードを聴いているようなロマン的情感に押し流されそうにはなったのだが。中でも第1曲『イタリアーナ』では抑揚、ダイナミクスの階層に極めて微細な変化が施され、これが思わず聴き手の涙腺を刺激する。アランはヴァイオリニストでもあるが、その出自のためということは大いにあるだろう、弦楽器の扱いが誠に上手い。響きは常に美しくよく鳴り、フレージングに無理がなく、実にまとまりが良い。それこそドヴォルザークやチャイコフスキーの弦楽セレナードなど是非聴いてみたいものだ。

休憩後はいよいよオケもフル編成の『ローマの噴水』と『ローマの松』。『噴水』冒頭からとにかく音が澄んでいる。オーボエやフルートなどのソロ陣も好調だが、やはり元々の都響の特質――清澄で清潔、見通しのよい響き――をアランの指揮がさらに際立たせている感。響きの量感と細部のクリアさが両立している稀有なホールであるミューザ川崎ではオケの粗はすぐに聴き手の耳に届いてしまうのだが(ちなみにリニューアル後初めて当ホールに来たが、以前より明らかに音響が良くなっている。クリアなまま響きが豊かになった)、この日の都響にその気配は全くない。2曲目の『朝のトリトンの噴水』や3曲目の『真昼のトレヴィの泉』における総奏でも音に一切の混濁がないのが驚異的だ。

そしてこれらの特質は最後の『松』において最高度に発揮される。指揮台に上がるや客席にほぼ顔を向けずいきなり振り始めた『ボルゲーゼ荘の松』ではパリッとした音色と最高リズム的な切れ味を聴かせ、そして『カタコンバ付近の松』では反対に漂うような拍節とずっしりと沈滞した音色を作る。『ジャニコロの松』ではクラリネットが最高のソロを披露するが、最後のナイチンゲールの鳴き声も距離感やバランスが絶妙の再生。そして『アッピア街道の松』では段階的な音響的高揚が誠に巧みであり(最後のリミッターを外したがごとき鳴り渡り!)、しかしここでもコーダに至るまで透明な音響は維持される。最後は文字通りホールを揺るがさんばかりの轟音が鳴り響いたが、それでも全くうるささがない。筆者が実演で接した『松』の演奏の中では最も完成度の高い名演奏だったと断言できるような出来栄えである。アラン&都響初共演時のブラームスやのちのマーラー:第5などの突き抜けた名演奏を体験した耳には、その後の彼らの演奏には必ずしも満足した訳ではなかった。もっと出来ることを知っていたからだが、しかしこの日の演奏は久方振りにこのコンビの本領を味わえた感がある。

文字通り聴衆は湧きに湧いたが、アンコールはなし。時間的にはいささか短いコンサートではあったが、その充実度は随一のものであった。

(2019/8/15)

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<Artists>
Conductor= Alan Gilbert, Principal Guest Conductor of the TMSO
Manabu Suzuki, Viola
Tokyo Metropolitan Symphony Orchestra
Kyoko Shikata, Concert Master

<Program>
Wolf: Serenade in G major, “Italienische Serenade (Italian Serenade)”
Respighi: Ancient Airs and Dances, Suite No. 3
Respighi: Symphonic poem “Fontane di Roma (Fountains of Rome)”
Respighi: Symphonic poem “Pini di Roma (Pines of Rome)”