NHK交響楽団 オーチャード定期 第103回|藤堂清
2019年5月6日 Bunkamuraオーチャードホール
Reviewed by 藤堂 清(Kiyoshi Tohdoh)
Photos by 林喜代種(Kiyotane Hayashi)
<演奏>
指揮:エド・デ・ワールト(Conductor:Edo de Waart)
ソプラノ:中村恵理(Soprano:Eri Nakamura) (*)
管弦楽:NHK交響楽団(NHK Symphony Orchestra, Tokyo)
<曲目>
ブラームス (Brahms):悲劇的序曲 (Tragic Overture) Op.81
R.シュトラウス (R.Strauss):
献呈 (Zueignung) Op.10-1 (*)
あすの朝 (Morgen) Op.27-4 (*)
歌劇《インテルメッツォ》(Intermezzo) Op.72
~4つの交響的間奏曲から第2曲〈暖炉の前の夢想〉
(4 Symphonic Interludes from 《Intermezzo》, No.2〈Träumerei am Kamin〉)
憩え、わが魂 (Ruhe, mein Seele!) Op.27-1 (*)
解き放たれて (Befreit) Op.39-4 (*)
チェチーリエ (Cäcilie) Op.27-2 (*)
—————–(休憩:Pause)—————–
ブラームス (Brahms):交響曲 第2番 ニ長調〈Symphony No.2 D major〉op.73
————–(アンコール:Encore)————-
ブラームス (Brahms)(パーロウ編 Orch. A. Parlow):
ハンガリー舞曲 第5番 (〈Hungarian Dance No.5〉)
《悲劇的序曲》の出だしのトゥッティがばらつき、音圧が奏者の動きほどは伝わってこない。先月NHKホールで聴いたときと較べるとおとなしい。
エド・デ・ワールトの指揮だから、悪いわけはなかろうと思うのだが、その後も金管の入りが微妙にずれたりで、聴いていて落ち着かない。演奏に入り込めないまま曲が終わってしまった。
これではまずいと気持ちを切り替えてR.シュトラウスに臨む。
独唱の中村恵理、2016年にバイエルン州立歌劇場とのソリスト契約を離れた後もミュンヘンを本拠に国内外で活躍している。スザンナのような軽めの役から、ヴィオレッタ、蝶々夫人といった重めの役へと移行しつつある。
これらの歌曲、リサイタルで歌ってきているものもあるが、その時はピアノとの共演、オーケストラをバックに歌う経験は少ないだろう。これらの歌曲のオーケストラ版は、R.シュトラウス自身により後年になって作られている。弦楽器や管楽器の多様な音色が加わることで、歌の表情も拡大される。大きなホールでの演奏機会が増えるため、声の厚みも必要となる。中村にとって歌曲における新たな地平を切り開くことにもつながり、オペラのレパートリーの変化とともに、今後の彼女の活動の中核ともなりうる分野と考えられる。
〈献呈〉では ‘Habe Dank!’ と歌うとき少し力みが感じられたが、〈あすの朝〉では、弦の響きにのり、ゆったりとしたテンポでおだやかな波が寄せるような歌いぶりであった。
間奏曲をはさんで後半の3曲、これらはダイナミクスの幅がある。今の中村にはそれに対応できる厚みのある声があり、オーケストラに載って会場全体に届けることができる。もちろん弱声で歌う部分も響きがやせることはない。オーケストラの管楽器に安定感があれば、全体の色彩感がさらにアップしたのではないか。
さて、この日のメイン・プログラム、ブラームスの《交響曲 第2番》。
第1楽章冒頭のホルンとフルートにひとまず安心と思っていたら、すぐに事故。細かいことを気にしても仕方がないと思い直すが、あちこちで不安定な部分が出る。
第2楽章以降はいくぶん落ち着きが戻ってきた。全体としては、あたたかみのある演奏で、まずまずというところだろうが、精度という点ではNHK交響楽団とは思えない場面があった。
10連休最後の日ということもあり、練習時間、場所の制約でもあったのだろうか?
残念な思いをかかえ、会場を離れた。
(2019/6/15)