日本フィルハーモニー交響楽団 第710回東京定期演奏会|藤堂清

日本フィルハーモニー交響楽団 第710回東京定期演奏会<春季>

2019年5月18日 サントリーホール
Reviewed by 藤堂 清(Kiyoshi Tohdoh)
Photos by 林喜代種(Kiyotane Hayashi)

<演奏>
指揮:アレクサンドル・ラザレフ (Alexander Lazarev)[桂冠指揮者兼芸術顧問]
ピアノ:エフゲニー・スドビン (Yevgeny Sudbin)*
トゥリッドゥ:ニコライ・イェロヒン (Turiddu:Nikolay Erokhin)
サントゥッツァ:清水華澄 (Santuzza:Kasumi Shimizu)
アルフィオ:上江隼人 (Alfio:Hayato Kamie)
ローラ:富岡明子 (Lola:Akiko Tomioka)
ルチア:石井藍 (Lucia:Ai Ishii)
合唱:日本フィルハーモニー協会合唱団 (Japan Philharmonic Association Choir)
管弦楽:日本フィルハーモニー交響楽団 (Japan Philharmonic Orchestra)

<曲目>
メトネル:ピアノ協奏曲第2番ハ長調 Op.50 (Metner:Concerto for Piano and Orchestra No.2)*
—————(ソロ・アンコール)—————–
スクリャービン:マズルカ作品25-3 (Scriabin:Mazurkas Op.25-3)*
———————(休憩)———————–
マスカーニ:歌劇《カヴァレリア・ルスティカーナ》(Mascagni:Cavalleria Rusticana)

 

指揮者のアレクサンドル・ラザレフは、1987年から1995年にかけてボリショイ劇場の首席指揮者兼芸術監督を務めてきた根っからのオペラの人。日本フィルハーモニー交響楽団の首席指揮者であった2008年からの8年間、桂冠指揮者兼芸術顧問となってから3年、オペラを取り上げるのは今回が初めてとのこと。
オーケストラの定期演奏会でオペラを取り上げるのは珍しい。演奏時間が長い、多くの歌手を必要とする、合唱もいる、オーケストラ以外の構成員が増えれば準備も大変になる。日本フィルハーモニー交響楽団に限ってみると、2017年5月のピエタリ・インキネン指揮のワーグナー《ラインの黄金》まで遡る。
それにも関わらず今回の上演を決断したのは、昨年の定期公演での、ストラヴィンスキーのメロドラマ《ペルセフォーヌ》の成果をうけてのことだろう。

マスカーニの歌劇《カヴァレリア・ルスティカーナ》では、モスクワのダンチェンコ劇場のソリスト、ニコライ・イェロヒンをトゥリッドゥ役に招聘、他の役は国内の中堅の歌手が歌った。
ラザレフはオーケストラの表情を場面ごとに見事に変化させていく。速めのテンポで弱音で響きの美しさを聴かせていたかと思うと、爆発的なフォルテに移行。歌の入るところでは、サッと音をしぼり歌いやすいように配慮する。イタリア的な音の流れとは異なるが、スムーズにドラマが浮き上がってくる。オーケストラも彼の指揮にしっかりと付いて行く。
イェロヒンは、ラダメス、カヴァラドッシ、ドン・ホセといった強い声を必要とする役柄をレパートリーとしている。常に大きな声で歌い続けるのではと危惧していたが、教会前でのサントゥッツァとの二重唱の激しい口調、ミサの後の乾杯の歌での明るい表情、その直後アルフィオとの対話での抑えた声、母への別れをしっかりと歌い分けた。わざわざ呼んだ意味はあった。
清水のサントゥッツァは、リリカルな声が印象に残った。コッソットやグレギーナのような「強い女」ではなく、トゥリッドゥに必死に縋り付く、そういった印象を与える歌であった。アルフィオとの二重唱、前半での怒りに我を忘れてローラとトゥリッドゥのことを訴える場面と、後半我に返った表情との対比には納得させられた。
アルフィオの上江は声の力という意味では充分なのだが、場面に応じた声の変化が的確に行えるようになるとよいと感じた。
ローラの富岡の罪の意識をかけらもみせない歌、ルチアの石井の事態がつかめずオロオロしている歌、ともに役柄にふさわしいものであった。

期待以上の興奮をもたらした後半であったが、前半のメトネルも演奏は立派なもの。
エフゲニー・スドビンのピアノは弱音から最強音まで美しく、音色も多彩であった。カデンツァがかなり長く、まさにスドビンの聴かせどころ、メトネルのピアノ曲の作りのうまさが際立っていた。エフゲニー・スドビンという名前はおぼえておきたい。
オーケストラの音色も多様で面白く感じるところはあるのだが、ところどころで「芸がないな」と思うこともあった。オーケストラの響きが単色で、それが続く場面があるのだ。メトネルの本領は比較的小規模なピアノ独奏曲や歌曲にあったのではないだろうか。

ラザレフ=日本フィルのオペラ・シリーズ、来年はラフマニノフの《アレコ》が予定されている。これ一曲でもよいと思うが、前プロはラフマニノフのピアノ協奏曲第1番、あまり演奏されることがない曲。
これから毎年継続していってもらいたい企画である。

(2019/06/15)