Back Stage|生活とつながる劇場/ロームシアター京都|長野夏織
生活とつながる劇場/ロームシアター京都
text by 長野夏織(Kaori Nagano)
「ロームシアター京都」は、2016年1月にリニューアルオープンしました。それ以前は、「京都会館」の名で長く親しまれてきましたので、そちらの名称に馴染みのある方も多いかもしれません。公園や美術館、動物園、寺社仏閣などが集積するエリアに位置していることもあり、公演の来場者だけではなく、観光客、家族連れなど、土日祝・平日を問わず、多くの人が行き交っています。ロームシアター京都は、「劇場のある空間」を中心に、人々の暮らしと芸術とが相互に繋がり、京都に新しい「劇場文化」を形づくることを目指しています。それを体現すべく、舞台芸術公演を行う3つのホールのほかに、隣接する公園とひとつづきのローム・スクエア(中庭)、書店やカフェ、レストラン、共通ロビーなど、公演が無い時でも日常的に足を運んでもらえるスペースを設け、賑わいを創出するためのイベント(トークイベントやマルシェ、ワークショップなど)も多数開催しています。
ホールでは、ポップスや演歌のコンサート、演劇やバレエ公演、国際会議に至るまで、さまざまな貸館公演が日々行われる一方、リニューアルオープン後は、自主事業のラインアップも充実させています。ロームシアター京都の自主事業は、<演劇>、<舞踊>、<音楽>、<総合>、<学び/参加>と、ジャンルが多岐にわたりますが、それらは「創造」、「育成」、「交流」、「生活」という4つの要素が相互につながることを意識して構成しています。
2019年度 自主事業ラインアップ
今回は、その中でも、ロームシアター京都の特徴的な自主事業を3つご紹介します。
<劇場の学校プロジェクト>
今年度から新たに取り組むのが<劇場の学校プロジェクト>です。中学生〜高校生を対象に、「演劇」「舞踊」「メディア・パフォーマンス」の3つのコースを設け、ワークショップと座学で構成します。講師は、岡田利規(演劇作家・チェルフィッチュ主宰)や南村千里(ダンスアーティスト)、高谷史郎(ダムタイプ)など、各分野の第一線で活動するアーティストやエンジニアが務めます。劇場の学校は、中学校・高校や習い事の場とは違った角度から、子どもたちが自分の興味について知り・深める機会や、学校・年齢を超えた仲間との出会いの機会となることを目指しています。それは、これから社会の中でどのように生きていくかについての答え探しの場にもなるかもしれません。今年度は試験的な開催ですが、将来的には、参加した子どもたちの中から、舞台芸術に関わる人材が生まれるプロジェクトに成長させていきたいと考えています。
<リサーチプログラム>
自主事業のプログラムを策定するためには、舞台芸術を含めた同時代の社会状況とその歴史的背景を踏まえたリサーチが必要です。ところが、美術館や博物館に比べて、劇場には研究・批評等を専門とする人材や機能が欠けていると感じます。このようなことから、舞台芸術に関わる研究・批評分野と実践の場をつなげる若手人材の育成を目的に実施しているのが、<リサーチプログラム>です。「現代における伝統芸能」「子どもと舞台芸術」「舞台芸術のアーカイブ」という、劇場プログラムの中でも重要な3つの柱をリサーチテーマに掲げて、リサーチャーを募集しています。2人のメンターと私たち劇場職員とのミーティングを月1回程度行い、年度末に開催する最終報告会(一般公開)の場で、リサーチの成果を発表してもらいます。その成果は、劇場発行の機関誌や紀要で発表、公開しています。過去には、子ども向けイベントの中でワークショップを実施したり、木ノ下歌舞伎の公演に関連したトークイベントを企画するなど、実践を交えたリサーチを行ったリサーチャーもいました。このように、単なるリサーチで終わるのではなく、劇場という場を生かしたプログラムになっています。
<レパートリーの創造>
ロームシアター京都が、2017年度から取り組んでいるのが<レパートリーの創造>です。劇場が主体的に作品製作に取り組み、劇場のレパートリー演目として時代を超えて末永く上演されることを念頭にプロデュースしています。また、作品創造のプロセスを通じて、俳優、ドラマトゥルク、制作者等の専門家人材の育成や観客育成のための関連プログラムも企画しています。2017~18年度は、「木ノ下歌舞伎」と作品製作を行いました。そして今年度からは、世界中の観客を魅了し続けるフランスの俊才、ジゼル・ヴィエンヌ(振付・演出家)を迎え、レパートリー作品を2年間にわたって製作します。初年度は、2001 年の初演から現在に至るまで、再演を繰り返しながら変化を続けるジゼル・ヴィエンヌの出世作『ショールームダミーズ』を上演します。出演するダンサーのほとんどは、一般公募によるオーディションで選抜しました。ロームシアター京都で生まれた作品が、全国そして世界各国で繰り返し上演されながら、育っていくことが願いです。
ご紹介したこれらの事業は、全く別々の取り組みではありません。<リサーチプログラム>でのリサーチ成果が、<レパートリーの創造>のプログラムに生かされたり、<劇場の学校プロジェクト>の参加者が、いつの日か<レパートリーの創造>の作品に出演することもあるかもしれません。こうして、ロームシアター京都と、そこに関わる人々、そこで行われるプログラムがつながりを持ちながら、良いサイクルが生まれていくような劇場でありたいと思います。
長野夏織(ロームシアター京都/事業企画・広報担当)
(2019/6/15)