Pick Up(19/5/15)|ラ・フォル・ジュルネTOKYO 2019|藤堂 清

ラ・フォル・ジュルネTOKYO 2019
  ~ボヤージュ 旅から生まれた音楽(ものがたり)

2019年5月3日~5日 東京国際フォーラム
Text by 藤堂 清 (Kiyoshi Tohdoh)
Photo by team Miura/写真提供:LFJ2019<公式写真>

今年15回目をむかえた東京でのラ・フル・ジュルネ、今年のテーマは、“Carnets de Voyage”(「ボヤージュ 旅から生まれた音楽(ものがたり)」)。
音楽祭のアーティスティック・ディレクター、ルネ・マルタンはこう言っている。
「いつの時代にも、作曲家たちは新たなインスピレーションを求めて異国の地を目指しました。彼らは、異文化から吸収したさまざまな刺激を、自分たちの創作に取り入れたのです。音楽祭の中では、作曲家たちの旅の軌跡を多彩なプログラムと共にご紹介いたします。」 

ラ・フォル・ジュルネって何という方は、こちらをご覧いただきたい。
今年は東京国際フォーラムの6会場で、同時並行で約45分間のコンサートが朝から夜まで行われ。3日間で有料124公演のほか、丸の内・銀座など近隣での無料のコンサートも含め、全部で約300公演が開催された。参加者は好きなコンサートを選び、1日中音楽に浸ることも可能である。
コンサートの演奏者には、旬の若手もいれば、大家もいる。めずらしい楽器の組み合わせやアンサンブル、そして西欧からはずれた地域の音楽なども聴くことができる。有名な作曲家のあまり演奏されることのない曲、知られていない作曲家の作品にも出会える。
講演会、マスタークラスといったイヴェントも充実しており、人気を集めている。
東京国際フォーラムの二つの建物の間の地上広場には多くのキッチンカーによる屋台村が出現、好みの料理を買い、広場に置かれた机や椅子を利用してピクニック気分を味わうこともできる。

前置きはこのくらいにして、筆者の聴いた有料コンサートのうちいくつかをご紹介しよう。

まず、知らない地域の音楽。
タヴァーニャという名の団体による”Cor di memoria 地中海のポリフォニー”。コルシカ島の伝統音楽であるア・カペラ・ポリフォニー合唱の歌い手9名で構成されている。地声でそれぞれが個性的な声を重ねていく。美しく響くハーモニーが聴けるわけではなく、雑音的な成分が強く残る。もっとも原初の声による情報伝達からつながっているようで、それが地中海のヨーロッパに近いところで生き残っていることに衝撃をうけた。

(c)teamMiura

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もう一つはカンティクム・ノーヴムという地中海沿岸の伝統楽器アンサンブル。こちらは二つのプログラムで登場した。まず “Paz,Salam et Shalom” と題するもので、それぞれスペイン語、アラビア語、ヘブライ語で「平和」を意味する。スペイン系ユダヤ人による音楽、スペインのアルフォンソ10世作曲の頌歌というプログラム。ついで、尺八、箏、津軽三味線、二胡という東アジアの楽器を加え”シルクロード”と銘うち、トルコ、オスマン帝国、中国、日本の曲もまじえたプログラム。ニッケルハルパ、ヴィエール、カヌーンという名の見慣れぬ楽器、その響きを新鮮な気持ちで味わった。

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若手で挙げておきたい名前。
一人はピアノのマリー・アンジュ・グッチ、アルバニア出身の20歳、フランス在住。16歳でパリ国立音楽院からピアノ演奏の修士号を授与されるなど早熟の天才として知られている。リスト、タンスマン、ラヴェル、サン=サーンスのプログラムを聴いたが、豊かな表情には驚かされた。タンスマンの《ミニチュア版・世界一周》は15曲からなり、世界各地の音楽が次々とあらわれる。その変化を楽しんだ。
ナントでのインタビュー
もう一人はソプラノのラケル・カマリーナ。ポルトガル出身の34歳。二つのプログラムに登場。一つはギターのエマニュエル・ロスフェルダーが中心となり、バンドネオン、パーカッション、モディリアーニ弦楽四重奏団を加えたアンサンブルによる、スペイン、ラテン・アメリカの作曲家によるもの。もう一つは、ドラージュ、ストラヴィンスキー、ベリオの作品を管楽器、ピアノ、弦楽四重奏、パーカッションを加えた編成で取り上げたもの。前者では彼女の母国の歌、ファドを低い地声で歌ったり、ヴィラ=ロボスのブラジル風バッハのアリアをピュアな声で聴かせたりと幅広い声楽的な能力を示した。後者でも、とくにベリオで聴かせた細かな表情付けとリズム感のすばらしさには驚かされた。

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ベテランの音楽も楽しいものであった。
チェンバロの大家、スキップ・センペが久しぶりにフォル・ジュルネに登場。二つのコンサートを行った。どちらも”スキップ・センペのカルト・ブランシュ”というタイトルで演奏が始まるまで曲目は不明であった。実際演奏されたのは、”フランソワ・クープランの聴いた音楽”と題し、フランソワの前の時代の音楽家、ダングルベール、シャンボニエール、ルイ・クープランの作品であった。2日目のアンコールに弾かれたのはフランソワ・クープランの作品で、やはり大クープランすごい。センペの優雅さを感じさせる音にも脱帽。

この音楽祭ならではのものに、普段一緒に演奏することがない音楽家の組み合わせによるコンサートがある。
プログラムに曲目だけ発表され、出演者はルネ・マルタンからのサプライズとされていたコンサート、会場入場時にはプログラムは渡されず、奏者が登場して初めてわかるという趣向。チャイコフスキーの《偉大な芸術家の思い出に》をニキータ・ボリソグレブスキー(Vn)、アレクサンドル・クニャーゼフ(Vc)、ボリス・ベレゾフスキー(Pf)が演奏した。まさに「サプライズ」。3人の自発と協調のバランスが見事で、聴いていてワクワクしっぱなしであった。

(c)teamMiura

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ほかにも、エマニュエル・ロスフェルダー(ギター)とビクトル・ウーゴ・ビジェーナ(バンドネオン)のアルゼンチン・タンゴを中心としたもの、フェリシアン・ブリュ(アコーディオン)とエドゥアール・マカレス(コントラバス)の2人によるコンサートのような、めずらしい組み合わせもあり、それぞれの楽器のトップクラスの技術を聴かせてくれた。

来年のテーマ、正式発表はだいぶ後のことだが、ご本家ナントではベートーヴェンの生誕250年を記念して行うことが決まっている。演奏される機会の少ない曲に光をあてることになるだろうとのルネ・マルタンの言葉があった。大いに期待したい。

(2019/5/15)