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オーケストラ・アンサンブル金沢~新たな指揮者陣とともに~
text by床坊 剛(Tsuyoshi Tokobo)
「岩城宏之が新しいオーケストラを金沢につくった」と音楽界の注目を集めてから30年。オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)は伝統芸能が盛んな石川県、金沢市に新たな文化を息づかせました。日本最初のプロの常設「室内オーケストラ」として設立され、国内外から演奏家を募り、これまで20度の海外公演を実施、また、コンポーザー・イン・レジデンス(現コンポーザー・オブ・ザ・イヤー)を設け現代音楽へも積極的に取り組んできました。
2006年に岩城さんが亡くなり、2007年に音楽監督を引き継いだ井上道義さんが2018年3月に退任、そして、9月には世界の舞台で活躍するフランス人指揮者、マルク・ミンコフスキが芸術監督に就任。設立30周年を迎えた2018年はOEKの新たな時代の始まりとなりました。
ミンコフスキに期待するのは「世界レベルの音楽」。2012年より共演を重ね、常にOEKから新たな響きを引き出し続けています。昨年夏には芸術監督就任記念公演として、彼が総監督を務めるボルドー国立歌劇場とのコラボレーションによるドビュッシーのオペラ『ペレアスとメリザンド』を金沢、東京で上演しました。フランスの若手実力派の歌手陣、舞台チームとの共同作業は、OEKがこれまで経験したことのないオペラ制作でした。日本公演に先立ち、2018年1月ボルドーで上演した『ペレアス』を観て、ミンコフスキの精緻な音楽作り、優れた歌唱力を持つ歌手、深遠な映像を用いた演出、すべてがドビュッシーの音楽と共に『ペレアス』の世界観を見事に表現しており、これが日本で上演されるのかと興奮を覚えました。と同時に日本の異なる会場での制作が実現可能なのかと不安でした。
演出家が打合せのため来日したのが3月。東京オペラシティコンサートホール、石川県立音楽堂を下見し、7月までの制作プランを協議、本番まで十分な時間もない中、金沢の舞台スタッフと共に制作を進め、テレビ会議でフランスとの打合せも度々行い、フランスのスタッフが金沢入りしたのが本番1週間前。早朝から深夜まで舞台制作に打ち込む金沢、フランス両スタッフは、試行錯誤を繰り返し、お互いを称え合い、ミンコフスキが納得した舞台に仕上がったときには感無量でした。「金沢でこんなオペラを観ることができるなんて信じられない」との観客の言葉が忘れられません。OEK新時代の幕開けを飾った大プロジェクトとなりました。
ミンコフスキが芸術監督に就任すると同時に、プリンシパル・ゲストコンダクターにはオランダ人指揮者ユベール・スダーン、パーマネント・ゲストコンダクターには川瀬賢太郎を迎え、また、昨年4月からは田中祐子を指揮者として新たに迎えました。若きスダーンを日本に紹介したのが岩城さんという縁もありましたが、室内オーケストラであるOEKの主要なレパートリーのハイドン、モーツァルト、ベートーヴェンといった古典作品を得意とするスダーンに期待します。
OEKの活動の柱の一つである現代音楽への取組はすでに各オーケストラで実績を築き上げている川瀬賢太郎に積極的に担っていただきます。2018年6月に田中祐子とともに行った台湾ツアーでは、アグレッシヴな演奏に、会場も熱気が溢れ、大成功をおさめました。
2019年3月にはスダーン指揮による定期公演を金沢、東京で行います。長年、東京交響楽団を率いて高い評価を得たスダーンが新たにOEKのポストに就き、東京で演奏を行う。とても刺激的で、東京のお客様には大いに興味ある公演となるのではないでしょうか。プログラムにはスダーンが得意とする、モーツァルトとベートーヴェンの作品を取り上げます。また、ヨーロッパで共演を果たし、信頼されるピアニスト、リーズ・ドゥ・ラ・サールをソリストに迎えます。メインはベートーヴェンの『英雄交響曲』。岩城、井上時代にも多く演奏してきた大交響曲をスダーンが室内オーケストラであるOEKとどう取り組むかにも期待が高まります。
7月にはミンコフスキが芸術監督就任後、初めてのOEKとの共演となる公演も予定しています。本拠地、石川県立音楽堂で開催する、新たな指揮者陣が登場する2019-2020シーズンのプログラムも間もなく発表です。是非ご注目下さい。
床坊 剛(オーケストラ・アンサンブル金沢)
(2019/1/15)
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公演情報
★第414回定期公演 2019年3月27日(水)19:00開演 石川県立音楽堂コンサートホール
★第35回東京定期公演 2019年3月28日(木)19:00開演 サントリーホール
モーツァルト:歌劇「皇帝ティートの慈悲」序曲 K.621
モーツァルト:ピアノ協奏曲 第9番 変ホ長調 K.271「ジュノム」
ベートーヴェン:交響曲 第3番 変ホ長調 op.55「英雄」
ユベール・スダーン(指揮)
リーズ・ドゥ・ラ・サール(ピアノ)
http://www.oek.jp/event/1062-2
http://www.oek.jp/event/1081-2
オフィシャル・ホームページ
http://www.oek.jp