群馬交響楽団 東京オペラシティ公演|平岡拓也

群馬交響楽団 東京オペラシティ公演

2018年11月26日 東京オペラシティコンサートホール・タケミツメモリアル
Reviewed by 平岡拓也(Takuya Hiraoka)
写真提供:群馬交響楽団

<演奏>
ソプラノ:中嶋彰子(滝の白糸)、
     北原瑠美(二場・乗客1、三場・傍聴人1)
メゾ・ソプラノ:金子美香(欣弥の母)
テノール:高柳圭(村越欣弥)、児玉和弘(一場・口上)、
     櫻井淳(一場・観客1、二場・乗客2)、
     芹澤佳通(一場・観客3、三場・傍聴人2)
バリトン:大川博(一場・観客2、二場・役員)、
     小林啓倫(二場・乗客3、三場・傍聴人3)
バス:清水那由太(二場・南京出刃打ち)、金子宏(三場・裁判長)
合唱:群馬交響楽団合唱団(合唱指揮:阿部純)
管弦楽:群馬交響楽団
コンサートマスター:伊藤文乃
指揮:大友直人

<曲目>
芥川也寸志:交響管弦楽のための音楽
團伊玖磨:管弦楽幻想曲「飛天繚乱」
黛敏郎:饗宴

千住明:歌劇「滝の白糸」より 序曲、第3幕(演奏会形式)

 

年度内に複数回東京公演を行う群馬交響楽団。今回のオペラシティ公演は直前の定期と同内容のオール邦人プログラムで臨んだ。率いる大友直人は、昨夏の東京交響楽団オペラシティ公演にてほぼ同一プログラムを指揮しており(昨年は芥川が『トリプティーク』、千住のオペラは序曲がなかった)、来年3月の退任を前に、群響でもこの邦人プログラムを紹介せんとしたのではないだろうか。「3人の会」作品を前半に並べ、後半の千住作品で現代日本の創作状況を聴衆に問う、といった流れだろうか。

まず冒頭、芥川也寸志『交響管弦楽のための音楽』。ロンド形式が鮮やかに切り替わり、Aのリズムにも斬れ味がある第2楽章を聴き、「こんなによく鳴り、かつ俊敏なオケだったか?」と驚いてしまった。筆者は数度の東京公演のほか、今夏は群馬音楽センターでの定期も聴いているが、技術水準が近年向上しているように感じる。

続く團伊玖磨『飛天繚乱』、團の管弦楽曲としては最後の創作であるが、伝統的な作風の中でオーケストラが伸びやかに歌う。かと思うとマンドリンのように構えた弦楽器群のピッツィカート・打楽器の乱舞が現れ、終盤は木管群を表に残して減衰してゆく。表題的要素もあって非常に聴き易い作品だ。

黛敏郎『饗宴』は前半3曲の中では最も先鋭と断じて問題なかろう。黛がパリ・コンセルヴァトワール留学を「もはや学ぶ事無し」として1年で切り上げ、帰国後1953年に團・芥川と結成したのが「3人の会」であり、結成直後の作品がこの『饗宴』だ。サックス5本を含む大管弦楽には、ジャズは勿論、ラテンやヴァレーズ、ストラヴィンスキーの薫りまで漂う。その音響彫琢は今なお鮮烈で、今後も演奏され継いでゆくべき作品との思いを新たにした。

後半、専属合唱団も引き連れての千住明『滝の白糸』抜粋である。

原作である泉鏡花の小説『義血侠血』(1894)は翻案され、新派の主要演目となっているが、オペラ化にあたっては俳人の黛まどかが台本を作成した。

舞台は越中。法曹を志す青年・村越欣弥は経済的困窮のため乗合馬車の御者となっていたが、かつて欣弥に危機を救われた女旅芸人の滝の白糸が彼に仕送りを申し出る。しかし対立する旅座に所属する南京出刃打ちに仕送り金を強奪され、その衝撃のあまり罪のない老夫婦に手をかけてしまう―ここまでが前幕までの流れだ。なお、原作で滝の白糸が殺害するのは南京出刃打ちと共謀する高利貸しであるが、オペラでは老夫婦に変更されている。白糸の怒りの矛先を復讐すべき相手ではなく、敢えて無関係の人物にすることで、彼女の狂気をよりドラマティックに炙り出そうという狙いだろうか。

音楽としては完全なる調性音楽、常套的なオーケストレーションであり、感傷的な場面では思い切り泣かせにかかる旋律が溢れ出す(プッチーニよりずっと露骨だ)。ただ、モティーフや旋律は物語の運びと一致しており、安定感に富むことは確かだ。時折気恥ずかしくなるほど叙情的に思えるのは、筆者が普段ドラマなどを観ないからだ、ということにしておく。打楽器のウィンドチャイムの濫用も気になったが―。

第3幕の第1場は滝の白糸の芝居小屋に始まり、続く第2場は白糸の公判を傍聴する客を乗せた乗合馬車。芝居小屋では合唱が口上に合わせて拍手をし、乗合馬車では乗客の世間話に合わせて周りが「なるほどなるほど!」と合いの手を入れる。これらは舞台を伴って観れば効果的な要素だろう。第3場ではいよいよ白糸が裁かれ、検事代理を務めるのは晴れて法曹となった村越欣弥である。欣弥の追及により遂に白糸は自らの凶行を自白するが、その時口を開くのが欣弥の母。金子美香が歌うこの短く印象的な母のアリアは、ドラマの緊張の頂点を形作り、以降の分水嶺となる。物語はここから、欣弥と白糸が最後の二重唱を交わす第4場の幕引きに向けて緩やかな減衰をたどるのだ。欣弥と白糸が「あなたなしには生きられぬ」と切々と歌ったのち、白糸は処刑され、欣弥は自らの手で命を絶つ。合唱が歌う浅野川の旋律は、来世での2人の再会を誘(いざな)うのだろうか。

西洋の言語よりくぐもった音になりがちな日本語の明瞭さが当初不安だったが、黛まどかの言葉の吟味、歌手陣の明晰な発音により、言葉をよく聴き取ることが出来たのは収穫だった。一方で音楽的な「攻め」は一切なく、その点は前半「3人の会」の鮮烈さに遠く及ばない。定期の内容をそのまま東京へ持ち込むという企画、誠実な演奏を披露したオーケストラと声楽陣には感謝したい。だが、楽曲それぞれの魅力というのはまた別問題なのである。

(2018/12/15)