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だからどうしたクラシック|GUSTAV MAHLER DANIEL HARDING SYMPHONIE NR.5|松本大輔

GUSTAV MAHLER DANIEL HARDING SYMPHONIE NR.5

text by 松本大輔(Daisuke Matsumoto)

レーベル/商品番号:
仏Harmonia Mundi  HMM 902366

<曲目>
グスタフ・マーラー(1860-1911):交響曲第5番 嬰ハ短調

<演奏>
ダニエル・ハーディング(指揮)
スウェーデン放送交響楽団

<録音>
2017年9月21-23日、ベルワルトホール(ストックホルム、スウェーデン)

★アリアCDでの掲載URL
http://www.aria-cd.com/arianew/shopping.php?pg=99/99new01#45

 

優等生の文学少年が、好き放題やっていたクラスのいじめっ子軍団に「おめえら、いいかげんにしろよ!」とついにぶちきれたような演奏。
ハーディング、やった。

2000年頃に相次いで出たベートーヴェンの序曲集、ブラームスの交響曲第3番・4番(ともにVIRGIN)を聴いたときは、当時暗黒状態にあった若手指揮者界に突如現れた救世主のように思えた。
21世紀のオーケストラ界はこのひとによって変わるかもしれないとさえ思った。

ダニエル・ハーディング。

ただ、それから20年・・・そうはならなかった。
次々と登場する才能あふれる若手に追い抜かれていったような印象もあった。
あれから多くのハーディングのアルバムが登場し、そこそこすばらしいものもあったのだが、「そこそこすばらしい」、で終わってしまう。
もちろん一般的な水準からしたらとてもよくできた演奏が多いし、マーラーの9番の交響曲の終楽章などかなりがんばっていたのだが、自分のハーディングに望むハードルが高いからか、聴いたあと「いや、もっとできるはずだろう・・・」と思ってしまうのだ。
だからここ数年のハーディングは、クラスのいじめっ子軍団をみても「ふっ、おれには関係ないね」と言ってそのまま去ってしまってる・・・そんな風に見えた。

しかし今度のマーラーの5番は違う。
ハーディング、明らかに戦いを挑んでいる。
「なんだ、おまえ。おまえは本でも読んでいろよ」と突っかかってきたいじめっ子軍団に、隠しもっていた秘密兵器で次々と襲い掛かり、完膚なきまでにたたきつぶす。
まさに秘密兵器の連続。その様はまるで奇術師。一体いくつのマジックを持っているのかとめまいがしそうなほどの強烈な仕掛け。
戦前指揮者のような重厚なテンポで仰天させたかと思いきや、透明美麗なオーケストラの澄んだ音色で絶句させ、天才的な間合いの取り方で息を呑ませたかと思うと、次の瞬間予想もしなかった小技を見せる。

戦前巨匠へのオマージュのように思ったのに、それを軽々超える美しき個性。
過去半世紀を総括しつつ、さらにこれからの100年を見据える圧倒的な存在感。

ハーディング。これから一気に攻め込むか。

(2018/12/15)

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松本大輔(Daisuke Matsumoto)
1965年、松山市生まれ。
24歳でCDショップ店員に。1998年に独立、まだ全国でも珍しかったネット通販型クラシックCDショップ「アリアCD」を春日井にて開業。
クラシック専門CDショップとしては国内最大の規模を誇る。
http://www.aria-cd.com/
「クラシックは死なない!」シリーズなど7冊の著書を刊行。
愛知大学、岡崎市シビック・センター、東京のフルトヴェングラー・センター、名古屋宗次ホール、長久手、一宮、春日井などで定期的にクラシックの講座を開講。