Back Stage|N響とパーヴォ・ヤルヴィ 今後のプログラム|西川彰一

パーヴォ・ヤルヴィ by Kaupo Kikkas

N響とパーヴォ・ヤルヴィ 今後のプログラム

text by西川彰一(Shoichi Nishikawa)

首席指揮者パーヴォ・ヤルヴィがN響と演奏するレパートリーは、マーラー、ブルックナー、R.シュトラウスを始めとする後期ロマン派の作品、そしてロシア・北欧の近現代曲が、大きく言って2つの柱になります。これにパリ管弦楽団の首席指揮者を務めた彼ならではのフランス音楽が加わり、さらにハイドンやモーツァルトのような古典も定期的に取り上げるつもりですが、2つの柱が今後もレパートリーの中心となっていくことは間違いありません。パーヴォはN響の持ち味であるダイナミックなサウンドを、これらの作品で生かしたいと考えており、私たちもまた、これらの作品においてこそ、首席指揮者の持ち味がいかんなく発揮されると考えるからです。この先2月と6月に予定している定期公演のプログラムも、まさに「2つの柱」を前面に出した選曲となっています。

アリューナ・バーエワ
by Vladimir Shirokov

♪2019年2月
<Aプログラム>
R.シュトラウス:ヴァイオリン協奏曲 ニ短調 ヴァイオリン/アリョーナ・バーエワ
ハンス・ロット:交響曲第1番 ホ長調
http://www.nhkso.or.jp/concert/concert_detail.php?id=812
http://www.nhkso.or.jp/concert/concert_detail.php?id=813

<Bプログラム>
ストラヴィンスキー:幻想曲「花火」、幻想的スケルツォ、ロシア風スケルツォ、葬送の歌、
バレエ音楽「春の祭典」
http://www.nhkso.or.jp/concert/concert_detail.php?id=814
http://www.nhkso.or.jp/concert/concert_detail.php?id=815

<Cプログラム>
ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番 ハ短調 ピアノ/カティア・ブニアティシヴィリ
プロコフィエフ:交響曲第6番 変ホ短調
http://www.nhkso.or.jp/concert/concert_detail.php?id=816
http://www.nhkso.or.jp/concert/concert_detail.php?id=817

カティア・ブニアティシュヴィリ
by Gavin Evans

Aは、ほぼ同じ1880年頃、後期ロマン派の最盛期に書かれた2作品です。前半は、数々の国際コンクールを制覇した若手ソリスト、バーエワを迎えて、R.シュトラウスのヴァイオリン協奏曲。決して演奏の機会が多いとは言えませんが、まだ10代だった作曲家の並々ならぬ才気が感じられます。
ハンス・ロットの交響曲はそれ以上に珍しい作品で、長く図書館に眠っていたスコアが再び日の目を見、世界初演されたのは、作曲から100年以上あとのことでした。パーヴォは、ブルックナーの弟子でありマーラーの友人であったロットが、両者をつなぐ存在であると考え、かねてから注目してきました。隠れた名曲を知ってほしいと、満を持して交響曲第1番を選んだのですが、何と同じ日に神奈川フィルさんがこの曲を取り上げるそうです。決して示し合わせたわけではありません。まるで惑星直列に匹敵するような偶然ですが、こんなことが起きるのも、コンサートの数が多い日本ならではのこと。ハシゴして両方を楽しむのも一興ではないでしょうか。
BとCはすべて20世紀ロシアの音楽です。Bはストラヴィンスキーの初期作品と「春の祭典」の組み合わせです。再発見といえば、「葬送の歌」も長年行方不明だったスコアが最近になって見つかり、初演から100年以上経つ2016年にゲルギエフが蘇演したのは記憶に新しいところです。
共演したいソリストとして、パーヴォからいつも真っ先に名前が挙がるのが、カティア・ブニアティシヴィリ、好きな作品としてよく挙がるのが、プロコフィエフの交響曲第6番です。両者を組み合わせたCは、パーヴォが自信を持って勧める最強のプログラムと言えるでしょう。

マティアス・ゲルネ by Marco Borggreve

♪2019年6月
<Aプログラム>
マーラー:「こどもの不思議な角笛」 バリトン/マティアス・ゲルネ
ニルセン:交響曲第2番 ロ短調「4つの気質」
http://www.nhkso.or.jp/concert/concert_detail.php?id=832
http://www.nhkso.or.jp/concert/concert_detail.php?id=833

<Bプログラム>
メシアン:トゥランガリラ交響曲 オンドマルトノ/シンシア・ミラー、ピアノ/ロジェ・ムラロ
メシアン:トゥランガリラ交響曲
http://www.nhkso.or.jp/concert/concert_detail.php?id=834
http://www.nhkso.or.jp/concert/concert_detail.php?id=835

ギル・シャハム by Christian Steiner

<Cプログラム>
バッハ/ウェーベルン:リチェルカーレ
ベルク:ヴァイオリン協奏曲 ヴァイオリン/ギル・シャハム
ブルックナー:交響曲第3番 ニ短調「ワーグナー」
http://www.nhkso.or.jp/concert/concert_detail.php?id=836
http://www.nhkso.or.jp/concert/concert_detail.php?id=837

いずれも、パーヴォ・ヤルヴィがN響と演奏することを特に強く望んだものです。
ニルセンの交響曲がいかにオリジナリティにあふれたものか、ある時ワインを飲みながら熱く語っていたパーヴォの姿を思い出します。これほどユニークで力強く、確信に満ちた音楽を作ったのは、ただベートーヴェンとニルセンだけだと。 N響ではブロムシュテットを除いて、特定の指揮者がニルセンの複数の交響曲を取り上げた例はありません。同じ北欧のシベリウスの交響曲と比べ、演奏頻度の低さは驚くばかりです。いずれはすべての交響曲をN響と演奏しその魅力を日本に広めたい、それが首席指揮者としてのパーヴォの抱負の一つです。
トゥランガリラ交響曲も、パーヴォがいつか必ずやりたいと言い続けてきた作品です。他のオーケストラともたびたび演奏していますが、N響のパワフルなサウンドこそがこの曲に最もふさわしいと、事あるごとに力説していました。「トゥランガリラ」のソリストとしておそらく今、世界で最高峰の2人が登場します。シーズン屈指の熱演となることでしょう。
これまでにも毎シーズン取り上げてきたブルックナーの交響曲は、第3番で4作目となります。パーヴォのブルックナーを聴いて、スウィトナーやサヴァリッシュに親しんだ古くからのN響ファンの皆様がどのような感想を持たれるのかわかりませんが、賛否はさておいても、これほど特徴的なブルックナーは今まで聴いたことがないと、多くの方が思われるに違いありません。彼がリハーサルで多用する「スウィング」という言葉に、その特徴は集約できると思います。重厚でいかめしい、従来のブルックナーの演奏スタイルとは正反対に、軽やかさ、躍動感に主眼を置いているのです。「これまで良くないとされた弾き方をことごとく要求される」という楽員の戸惑いの声もありますが、パーヴォによると、伝統に縛られるのではなく、音楽そのものに内在する論理に従った結果だといいます。ことに彼が好むブルックナー初期の交響曲はロマン派の延長線上にあり、こうしたアプローチがよりふさわしいと考えているようです。「重厚」か「スウィング」か、あるいは両方が併存するのか。今後どのようなスタイルが主流になるのかわかりませんが、少なくともパーヴォとN響は、これからも「スウィング」に力点を置いた演奏で、ブルックナーの演奏史に新しいページを刻んでいくことになりそうです。

西川彰一(NHK交響楽団 演奏制作部長)

(2018/12/15)