Pick Up(18/11/15)|映画『ピアソラ 永遠のリベルタンゴ』|齋藤俊夫

映画『ピアソラ 永遠のリベルタンゴ』
(原題:PIAZZOLLA THE YEARS OF THE SHARK)

text by 齋藤俊夫(Toshio Saito)

2017年/アルゼンチン・フランス/カラー(一部モノクロ)/94分/英語・フランス語・スペイン語/字幕翻訳:川嶋加奈子/字幕監修:斎藤充正
配給:東北新社、クラシカ・ジャパン

(スタッフ)
監督:ダニエル・ローゼンフェルド
音楽:アストル・ピアソラ
撮影:ラミロ・シヴィタ
編集:アレハンドロ・ペノヴィ
サウンド・デザイン:ガスパル・シェウエル、ディエゴ・マルティネス
出演:アストル・ピアソラ、ダニエル・ピアソラ ほか
プロデューサー:フランソワーズ・ガジオ&ダニエル・ローゼンフェルド

アルゼンチン・タンゴの革命者、アストル・ピアソラの伝記映画の傑作が誕生した。と言っても、ピアソラの生涯を物語的に綴ったものではなく、様々な素材をモンタージュして作り上げた一つの交響楽的なドキュメンタリー映画である。

彼の演奏風景も含む、ピアソラの映像やインタビューの録音、ピアソラ家の8ミリ映像や写真などのアーカイブ、ピアソラが生きた場所と時代の映像、ピアソラの息子ダニエル(今回の映画制作の提案者であり、ナレーションも担当している)の現在の映像、ピアソラと直接関係はないが彼のイメージを強める素材―なかでも筆者の目に強烈に残ったのが、ニューヨークを代表する写真家ソール・ライターの一連の写真作品である―などなど、4年間かけて世界中をリサーチした莫大な素材が94分にまとめられている。

これらを使ってのモンタージュの素晴らしさは実際に見ないとわからない、と言ってしまいたいが、原題にもある「サメ」のモチーフに注目して説明すると、冒頭のピアソラ生涯の趣味であるサメ釣りの映像、サメ釣りについて語る彼の声、サメ釣りができなくなったと言って彼が死んだと語る息子ダニエルの声、ピアソラのいない海の映像、それら断片的な素材が映画の要所要所で現れることによって「サメの時代」というピアソラ自身が使った隠喩的な言葉で彼の一生が繋がって見えてくるのだ。

また、「革命者」として生きたピアソラの苦闘を目の当たりにできる映画でもある。アルゼンチン・タンゴの保守派から「共産主義者(コミュニスト)」と罵られ、命すら狙われたと苦笑交じりに語る彼のインタビュー、彼がプロデューサーか誰かと口論をしている声(電話か何かの録音記録であろうか)、彼が家庭を捨てたと唐突に挟まれるナレーション、彼の激しい音楽の根底にある闘争心がこれらの記録によって劇映画とは全く違った形で伝わってくる。

陳腐な表現かもしれないが、この映画では、生きたピアソラがそこにいるような感覚を覚えるのである。彼の演奏、彼の声、彼の姿、彼が見た風景、彼が生きた時代、彼と共にあった家族、それらがドキュメンタリー映画という表現形式を使ってピアソラという一人の音楽家の姿を映し出し、ピアソラの音楽全てを聴かせてくれるのである。


12月1日から、Bunkamura ル・シネマ他、全国順次ロードショー
https://piazzolla-movie.jp/
http://www.bunkamura.co.jp/cinema/lineup/18_piazzolla.html

(2018/11/15)