Back Stage|ホリガーの自画像|宮下良介

ホリガーの自画像

text by 宮下良介(Ryosuke Miyashita)

首席指揮者マティアス・バーメルト ©Yasuo Fujii

2019年度、札幌交響楽団(札響)定期演奏会に、首席指揮者マティアス・バーメルトはテーマを設けました。

“What composers do to other composers…”
作曲家が作曲家に出あうとき・・・何を感じ、何を与えたのだろう?
変奏、再生、引用、補完、畏敬。
偉大な才能は、異なる才能と出会い再発見されることとなる、そして再構築や再編成を経て、新たな響きへと発展していくのだろう。
そこにあるのは、尊敬の念、創造への力となる出あいの喜びに違いない。
私は、札幌交響楽団首席指揮者に就任するにあたり、札響を聴いていただくみなさまにはぜひ、演奏会が単に楽曲や演奏者の思い出にとどまらず、音楽への興味や理解を深めてくれる、なにか今後につながるものにしていきたいと思っていました。
そこで2019-2020の定期演奏会のプログラムを考えていくにあたり、出演してくださる指揮者のみなさまにひとつのテーマを提示し、一緒に考えていただきました。
そのこたえは、主題に則った変奏だったり、異なる楽器編成への編曲だったり、作品の引用だったり、と様々です。しかしいずれにも共通するのは、作曲家たちの出あいにより色濃く縁どられることとなる音楽への情熱、それが感じられるところではないでしょうか。
私は、札幌交響楽団定期演奏会の1年間10のプログラムがひとつのテーマのもと開催される「シリーズ企画」として創り上げました。
この1年間のプログラムを通じ、みなさまには、ひとつのテーマを追い続けるプロジェクトに参加したように感じていただき、音楽的体験としてみなさまの心に深く残るようであってほしいと願っています。

首席指揮者 マティアス・バーメルト

ラトヴィア放送合唱団とシューマンのミサ・サクラを演奏 (2017年5月19日札幌コンサートホールにて)

バーメルトからの「お題」を2019年度の定期演奏会に出演する指揮者たちに投げかけ、「回答」を出してもらうカタチでプログラムづくりは始まりました。中には「お題」に縛られず、自由に選曲したいと思う客演指揮者もいるのではと心配しました。中でも9月に出演予定のハインツ・ホリガーは一番心配した音楽家でしたが、結局は、一番誠実に「お題」に応えてくれた指揮者でした。
首席指揮者就任早々のバーメルトに次の年度の定期演奏会にホリガーを呼ぶことを提案した時、彼は「楽団員は大丈夫か?」と心配しました。二人は同じスイス人ですし、きっとホリガーが色々なオーケストラとぶつかってきたことを知っているのでしょう。「札響とはうまくいっている」とこたえると、「ならいい」とおさまりました。
ホリガーが出したプログラムはこれです。

  1. ホリガー/二つのリスト・トランスクリプション
  2. J. S. バッハ/カンタータ第12番「泣き、嘆き、憂い、怯え」からシンフォニア
  3. J. S. バッハ/カンタータ第21番「わが心に憂い多かりき」からシンフォニア
  4. ベルク/ヴァイオリン協奏曲「ある天使の思い出に」
  5. ホリガー/アルドゥル・ノワール(黒い熱)-ドビュッシーの「燃える炭火に照らされた夕べに」よる-
  6. シューマン/交響曲第1番「春」

4と5の間に休憩がはいります。2と3はホリガーがオーボエを吹きながら指揮、4のヴァイオリン独奏は彼が強く推すヴェロニカ・エーベルレ、5の舞台裏の合唱は札響合唱団。
このプログラムを見て私は鳥肌が立つくらいに感動しました。それは「お題」と「回答」というプログラム作りに応えてくれただけでなく、この年80歳を迎える大音楽家が自分の人生を振り返り「自画像」のようなプログラムを札響に提案してくれたからです。前半と後半はそれぞれ「お題」に沿ってリストとドビュッシーの音楽に基づいたホリガーの自作で始まります。そしてバッハのカンタータからオーボエが活躍する2曲のシンフォニア、そして同じくバッハのカンタータのコラールからの印象的な引用で知られるベルクのヴァイオリン協奏曲、最後は彼が「一番好きな作曲家」と言い切るシューマンの交響曲第1番「春」で締めくくるという、自分の指揮者、作曲家、オーボエ奏者、そしてシューマニストという姿をすべて現す非常に意欲的なプログラムです。

リハーサル風景
(2017年5月16日札幌芸術の森にて)

ホリガーと札響は、1970年にオーボエ奏者として初共演、2015年に指揮者として初共演しました。指揮者としてのホリガーについては、様々なオーケストラとの「武勇伝」をさんざん聞かされてきましたので、最初は本当に緊張しました。しかし、彼は凶暴な人なのではなく、音楽に夢中な純粋な人なのだということはすぐにわかりました。彼に趣味をきいたら、「音楽より面白いことがあるか?」と答えるくらいです。練習中にホリガーから厳しいことばが出されても、楽団員たちも音楽に夢中になっているので気にならないらしく、時間さえも忘れてしまうそうです。ただ、当時のスタッフが、ホリガーも楽団員も盛り上がっている最中、練習時間の終了を伝えるのがあんなに辛かったことはないと後に話していました。
2015年、2017年、そして2019年と、ホリガーの札響への登場は3度目になります。彼の所属事務所によると、日本で3度も指揮したオーケストラはないそうです。意外な感じと、誇らしさも感じます。ホリガー自身、札響について「最初はどうなるかと思ったが、1日、また1日とどんどん良くなっていった。本当に可能性のあるオーケストラだ」と言ってくれました。初回から相性のよさを感じていましたが、回を重ねる度に信頼関係は深まり、この記念すべき演奏会で歴史に残るような演奏ができる予感がします。9月20日、21日はぜひ札幌コンサートホールまで足をお運びください。

宮下良介(札幌交響楽団 事業部長)

(2018/11/15)

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公演情報/札幌交響楽団第622回定期演奏会
2019年9月20日(金)19時、21日(土)14時 会場:札幌コンサートホールKitara
URL: http://www.sso.or.jp/
   https://www.sso.or.jp/upload_img/20181025_155851.pdf