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アジア オーケストラ ウィーク 2018[第4日]|佐野旭司

アジア オーケストラ ウィーク 2018[第4日]

2018年10月7日 東京オペラシティ コンサートホール
Reviewed by 佐野旭司 (Akitsugu Sano)

<演奏・出演>
楊 洋 Yang Yang (指揮)
宁 峰 Ning Feng (ヴァイオリン)
杭州フィルハーモニック管弦楽団 (管弦楽)

<曲目>
ヴェルディ:歌劇《ナブッコ》序曲
趙 季平 Zhao Jiping:ヴァイオリン協奏曲第1番
[ソリスト・アンコール]
 パガニーニ:《24のカプリース》より第1番 ホ長調 op. 1
 J. S. バッハ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第3番 BWV1005より第3楽章
シューベルト:交響曲第9番 D. 944
[アンコール]
 鮑 元恺 Bao Yuan Kai:《対花》
 成田為三:《浜辺の歌》

 

今年で17回目を迎える「アジア オーケストラ ウィーク」。文化庁芸術祭主催のこの公演は2002年に始まって以来、日本を含むアジア太平洋諸国の様々なオーケストラを招聘している。今年は10月4~7日に群馬交響楽団、フィリピン・フィルハーモニック管弦楽団、そして中国の杭州フィルハーモニック管弦楽団の3団体が参加。うち筆者は10月7日に東京オペラシティのコンサートホールで行われた、杭州フィルハーモニック管弦楽団の公演に足を運んだ。

プログラムは上記のように、西洋のクラシック作品と中国人作曲家による作品からなる。
この管弦楽団の演奏のもっとも際立った特徴は、強弱の大きな対比によって曲に変化をつける点であろう。まず《ナブッコ》序曲はトロンボーンとチューバによるコラール風の旋律で始まるが、非常に安定しており、かつ荘厳に響いていた。しかし、その後突如フォルテになるところでは、強弱の変化が機械的という感も否めない。
シューベルトの交響曲第9番の第1楽章も同様である。冒頭のホルンに続いて木管楽器が同じ旋律をコラール風に繰り返し、さらに同一の旋律がフォルテで現れるが、そのフォルテへの移り変わりはもう少し自然な流れであるべきだろう。
また2作品とも、テンポの速い部分や力強い部分は正確さや緻密さが伝わり、なおかつ躍動感もある。一方レガートの部分やテンポの遅い部分では、感情表現が抑えめであった。シューベルトの第2楽章のB部分や第3楽章のトリオでは、情感を込め過ぎず、かといって淡泊にもならず、程よい表現といえる。
ただし《ナブッコ》の3/8拍子の部分(アンダンティーノの旋律)は、もう少し表情豊かに演奏してもよかっただろう。
杭州フィルハーモニックは2009年に設立というまだ若いオーケストラである。そのことを考えると、アンサンブルが熟成していないのはやむを得ない。

さらに、2曲の「クラシック」の作品の間では中国人作曲家、趙季平の《ヴァイオリン協奏曲第1番》が演奏された。
曲は決して「前衛的」ではなく、19世紀末から20世紀初頭の作風だ。チャイコフスキーやラフマニノフのような19世紀ロシアを思わせる優美で情緒的な部分がある一方、ドビュッシーやラヴェルに見られる旋法的な部分もある。
またこの曲は本公演のソリスト宁峰のために作られたこともあり、彼の良さが十分に演奏に生かされていたといえよう。

本公演ではさらにアンコールが2回。
1回目は休憩前(協奏曲の後)にソリストが2曲披露した。
最初はパガニーニの《24のカプリース》より第1番。テンポは速めだが、力が入りすぎているように聞こえた。音程も音色も悪く、荒っぽいという印象も否めない。超絶技巧を披露する曲ではあるが、もっと遅いテンポで1音1音を丁寧に出せば、聴き映えのする演奏になっただろう。
そして2曲目はJ. S. バッハの《無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第3番》の第3楽章。こちらは打って変わって音程も音色も良く、また1曲目と比べるとよく歌い込んでいた。

そして最後の曲目(シューベルト)の後にはオーケストラによるアンコールが2曲演奏された。
1曲目は鮑元恺の《対花》で、旋律はおそらく5音音階(階名でド・レ・ミ・ソ・ラの音からなるド旋法とラ旋法)を基調としており、いかにも「中国風」の響きがする。
2曲目は成田為三の《浜辺の歌》。同じ旋律を2回繰り返し、1回目は主に木管楽器が、2回目は主に弦楽器が主旋律を担う。金管楽器や打楽器を多用した華やかな《対花》とは対照的に簡素な編成で、本来の曲の雰囲気を見事に表している。
この2曲では、曲の流れが前述のように「機械的」ではなく、逆に自然で流麗であった。肩の力が抜けリラックスしているかのようであり、本公演の中でも最も理想的な演奏だったといえる。

(2018/11/15)

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佐野旭司 (Akitsugu Sano)
東京都出身。青山学院大学文学部卒業、東京藝術大学大学院音楽研究科修士課程および博士後期課程修了。博士(音楽学)。マーラー、シェーンベルクを中心に世紀転換期ウィーンの音楽の研究を行う。
東京藝術大学音楽学部教育研究助手、同非常勤講師を務め、オーストリア政府奨学生としてウィーンに2年留学、2018年7月帰国