《Secretz rebretz 秘めたる悲しみ》|佐野旭司

ピエール・ド・ラ・リュー没後500年記念コンサート
Secretz rebretz 秘めたる悲しみ
ド・ラ・リューの世俗音楽

2018年9月7日 近江楽堂
Reviewed by 佐野旭司 (Akitsugu Sano)
Photos by 村田厚生/写真提供:ピエール・ド・ラ・リュー没後500年記念コンサート事務局

<演奏・出演>
鏑木綾、長谷部千晶、及川豊、小笠原美敬 (歌)
菊池かなえ、仲間知子、野崎真弥、相川郁子 (ルネサンスフルート)
相澤紀恵 (コルネット)
中山真一 (ヴィオラ・ダ・ガンバ)
村田厚生 (サックバット)

<曲目>
ピエール・ド・ラ・リュー『マルグリット・ドートリッシュの楽譜集』より抜粋

 

今年はフランドル楽派を代表する作曲家の1人、ピエール・ド・ラ・リューPierre de la Rue (1450もしくは60年代~1518)の没後500年に当たる。
ピエール・ド・ラ・リューはミサ曲やモテット、シャンソンなどの作品を多数残しているが、本公演ではシャンソンに焦点を当てていた。彼は引退までの8年間ネーデルランド総督マルグリット・ドートリッシュに仕えていたが、彼女は文化や芸術に造詣が深く、彼女の命で楽譜集の編纂も行われている。その楽譜集にはド・ラ・リューの作品が多く収められており、今回はその中から以下の13曲を抜粋していた。

 

これらの曲の多くは、婚約破棄や夫との死別、子供の死産といった過酷な運命に見舞われながらも、政治や外交で優れた手腕を発揮したマルグリットの人となりや、心のうちに秘められた悲しみや嘆きを表したものである。
今回は11人の演奏家による小さなアンサンブルで、4人の歌い手(ソプラノ2人、テノールとバス各1人)とルネサンスフルート4本、コルネット(ツィンク)、サックバット、ヴィオラ・ダ・ガンバという編成だった。ただ曲によって歌や楽器の組み合わせは様々で、中には器楽のみで演奏する曲もあれば、部分的にア・カペラで歌う曲もあった(最後の曲の冒頭)。それにより、1人の作曲家のシャンソンを演奏しながらも、変化に富んでいた。

またこの公演では、演奏の合間に2回ほど楽器も紹介も。上記のように一般的にはあまりなじみのない楽器ばかりだが、奏者による巧みな話術による解説のおかげで、古楽器の存在をより身近に感じることができた。
特にサックバットの紹介では、「この形状からはまるで想像がつかないかもしれませんが、トロンボーンの祖先です」という説明に、当然ながら(?)客席からは笑いが起こった。それにしてもこの楽器、現在のトロンボーンと比べても外見には大きな違いはなく、朝顔の部分が一回り小さいことくらいだろうか。
またヴィオラ・ダ・ガンバの紹介では、今回のアンサンブルでは唯一の弦楽器で、唯一チューニングが必要なこと、また当時実際に使われていたか定かではないことなど、ひたすら「仲間はずれ」な楽器であることを強調していた。

演奏のほうでは、これらの楽器と歌が見事に一体となり、美しいポリフォニーを形成していた。
余談になるが、筆者は今年の7月までウィーンに滞在しており、このような少人数の古楽アンサンブルを聴く機会が何度かあった(そのうちのいくつかは本誌の「ウィーン便り」でも紹介している)。中でも印象的だったのは、昨年4月のペーター教会での演奏会である。この時はド・ラ・リューよりも約1世紀後のスペインの作曲家ビクトリアの曲を演奏しており、4人の歌い手と4つの楽器(コルネット1本とドゥルツィアン3本)という編成であった。そのうちコルネットは歌とうまく融け合っていたが、ドゥルツィアンは音が強すぎた記憶がある。
話がそれてしまったが、それに比べると今回の演奏会では楽器と歌が音色的に融合し、また音のバランスもよく考えられており、全体の調和のとり方は見事といえる。ただコルネットは、低音域になると音程がやや不安定であった。奏者の話では、ミーントーンで調律するため他の楽器と音を合わせるのが難しいそうである。それでも高音域になるとしっかりと響き、他の声部とよく合っていた。

昨年はハインリヒ・イザークの没後500年で、今年はピエール・ド・ラ・リューの没後500年と、フランドル楽派の作曲家のメモリアルイヤーが続いている。そのため日本でも彼らの作品を演奏する機会がよくあるそうだ。今回の公演はその中でも、ド・ラ・リューの世俗作品に焦点を当てた興味深いもので、その魅力が十分に伝わってきた。こうしたメモリアルイヤーを機に、彼らの作品が日本でもさらに広まることが期待される。

 (2018/10/15)

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佐野旭司 (Akitsugu Sano)
東京都出身。青山学院大学文学部卒業、東京藝術大学大学院音楽研究科修士課程および博士後期課程修了。博士(音楽学)。マーラー、シェーンベルクを中心に世紀転換期ウィーンの音楽の研究を行う。
東京藝術大学音楽学部教育研究助手、同非常勤講師を務め、オーストリア政府奨学生としてウィーンに2年留学、2018年7月帰国。