日本フィルハーモニー交響楽団第703回東京定期演奏会|齋藤俊夫

日本フィルハーモニー交響楽団第703回東京定期演奏会

2018年9月8日 サントリーホール
Reviewed by 齋藤俊夫(Toshio Saito)
Photos by 林喜代種(Kiyotane Hayashi)

<演奏>
管弦楽:日本フィルハーモニー交響楽団
指揮:山田和樹
ピアノ:萩原麻未(*)

<曲目>
フランシス・プーランク:『シンフォニエッタ』
三善晃:『ピアノ協奏曲』(*)
(ソリストによるアンコール)三善晃:『波のアラベスク』(*)
ポール・デュカス:交響詩『魔法使いの弟子』(ストコフスキー版)
アンリ・デュティユー:交響曲第2番『ル・ドゥーブル』

 

プーランク、デュカス、デュティユーのフランス人作曲家3名に、フランスで学んだ三善晃を交えてのプログラム、そして現代音楽、特に日本のそれに挑戦し続けている山田和樹の指揮に大いに期待した。しかし、音楽的喜びだけでなく、ある種の苦さも味わう結果となった。

プーランク『シンフォニエッタ』、残暑がまだこたえる気候にこの涼しさは実に心地よい、と第1楽章の始まりでは感じたが、次第になにか物足りなくなってきた。全体がむやみに元気一辺倒で、表現に起伏がない。作品の構造を把握し、音楽に句読点をつけて演奏し分けるということもできていない。木管、金管などのソロは上手いのだが、オーケストラを聴く楽しさは曲が進むにつれ下り坂。山田和樹の指揮もただ大げさなだけに見えてくる。もっとプーランクのエスプリを!と思ったのは筆者だけであろうか。

三善晃『ピアノ協奏曲』、冒頭から弦楽器が切りつけ、ピアノの萩原麻未が必殺の一撃を続けざまに放ち続ける。知ってはいても実際の演奏で聴くと三善のエネルギーは圧倒的。萩原のカデンツァは、重量級の超高速フォルテシモからレントのピアニシモに移っても緩み、たるみは全く無く、オーケストラも同じく鬱勃とした力がこもっている。弱音の中の揺らぎが神秘的。急―緩―急の最後の急の部分に入ると、萩原の渾身のピアノがオーケストラを導き、古代の巨人が現代に蘇って破壊の限りを尽くしているような、大迫力の音楽が会場に満ち満ちた。三善の精妙な書法が犠牲にされたかもしれないが、全員一丸となって最後まで突進したそのバイタリティに筆者は圧倒された。
萩原によるアンコール、三善のピアノ独奏曲はそっと恋人に語りかけるような甘く優しい作品で、三善の全く異なる2つの側面、それぞれに豊かな音楽を体験することができた。

デュカス作曲・ストコフスキー編曲版『魔法使いの弟子』、デュカスのオリジナル版と今回の編曲版の細かな相違を指摘することはできないが、全体の印象としては「妙に豪勢な魔法使いの弟子」と言ったところである。元々かなり「鳴る」作品ではあるが、ストコフスキー版では特に打楽器が文字通り「打ち鳴らされる」所が多かったように思える。演奏の印象としては「妙にズッシリとした魔法使いの弟子」とでも言えようか。これは編曲のせいも大きいだろうが、魔法にかけられた箒が歩いているというよりは力士か何かがノシノシと歩いているような重たさであった。プーランクと同じく、個人技は冴えるのだが、オーケストラ全体としては少々違和感を感じた。

デュティユー交響曲第2番『ル・ドゥーブル』、これもまた冒頭で引き込まれ、次第に興が冷めていき、最後は納得いかないまま終わってしまった。
第1楽章、淡々としたリズムで始まり、断片が集まっていく最初のクレシェンドからトゥッティのフォルテシモに至るまでは、デュティユーの不可思議な音響を見事に再現していると思えた。だが、その後の緩やかな楽想は不可思議ではあるものの、それぞれの楽器が呼応して一つの全体を構築することに成功していたとは言い難い。
第2楽章もまた、弦楽器がゆっくりと夢幻的な、または悪夢的な波を作り出し、そこに木管楽器が混ざり合う序盤こそその響きに聴き入ったものの、楽器数が増えていくにつれてパートごとのアンサンブルの精度の低さが気になってきて、そして音楽の求心力が失せていった。
突如花開くオーケストラに始まる最終楽章、この楽章で指揮・演奏の構築性の弱さが最終的に明らかとなった。フォルテシモの金管が力技で押し切れる部分はまだ聴けたが、そうでない大部分は楽譜をなぞっているだけの棒読みの演奏で、どんな音楽を聴かせたいのかという説得力に欠ける。特にロングトーンが綾を成す後半は、もっと甘美なロマンチシズムと対位法的な明晰な書法を聴かせてもらいたかった。
聴く人を選ぶ難曲であることは確かなのだが、現代音楽の名作そして名演というものは、普段馴染みのない人が聴いても「何かを言おうとしていることは伝わってくる」と妙に納得させてしまうものではないだろうか。ホールから帰る聴衆が皆口を閉ざしていたのが悲しく印象に残った演奏会となった。

(2018/10/15)