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群馬交響楽団 第541回定期演奏会|藤原聡

群馬交響楽団 第541回定期演奏会

2018年9月23日 群馬音楽センター
Reviewed by 藤原聡(Satoshi Fujiwara)
写真提供:群馬交響楽団

<演奏>
指揮:大友直人
ソプラノ:嘉目真木子
メゾソプラノ:坂本朱
テノール:清水徹太郎
バリトン:原田圭
合唱:群馬交響楽団合唱団
合唱指揮:阿部純

<曲目>
エルガー:オラトリオ『神の国』 作品51

 

今年はエルガーの何らかの記念年という訳でもないのだけれど、7月にはノット&東京交響楽団が『ゲロンティアスの夢』を取り上げたのに続き、本稿で扱う9月23日の群馬交響楽団定期演奏会では大友直人の指揮によって『神の国』を演奏した。両曲とも声楽ソロと大人数の混声合唱、オケによる作品で演奏時間も1時間半を必要とする大曲、なかなか演奏されることはない。この2曲が関東圏のオケによってわずか2ヶ月の間に取り上げられたという事態。コンサートゴーアーの方であればなぜかしばしば発生するプログラミングの奇妙なバッティングというかシンクロニシティというものをご存知と思うが、これなどもその例に含めてよい。
7月の『ゲロンティアス』に感銘を受けた身としては、この曲以上に実演で聴く機会のない『神の国』が演奏されるのだからこれを聴き逃す手もあるまい、ということで高崎まで足を伸ばす。

演奏についてまず結論から記せば、実に高い水準で『神の国』の演奏が成し遂げられたと思う。これには大友直人の功績が極めて大きいだろう。大友は2002年3月に東京交響楽団と当曲を演奏しているというが、『ゲロンティアスの夢』、『使徒たち』、『生命の光』をも全て実演にて取り上げている。交響曲や管弦楽曲も度々プログラムに載せている大友は、日本の指揮者の中ではいわば最もエルガーを知り尽くした指揮者と言っても過言ではない。この日の演奏でも、例えば冒頭の前奏曲で現れる主題が後の歌で回帰して来るに際しての扱いの巧みさ、あるいはアーチ型によるシンメトリックな構成―「アッパールーム」→「美しき門」→「アッパールーム」→「美しき門」→「アッパールーム」という5部構成―を何の虚飾も誇張もなくありのままに浮かび上がらせたり、といった辺りは練達の業と言ってもよい。
筆者は『神の国』の実演は今回が初体験だが、このコンサートのために改めて聴いていたボールト盤あるいはヒコックス盤よりもこの曲の構成が体感的に理解できた印象がある。知識として予め知っていたことの「答え合わせ」としてではなく、それが実演の場で善く演奏されていたがゆえに聴き手であるこちらにスッと入って来たということに違いない。より高い精度と透明度が望まれるとは言え、この大人数でよくこれだけ統一された歌唱を聴かせたものだ、とその健闘を称えたい群響合唱団(英語の発音も様になっていた)、総じて高水準の歌唱で見事なまとまりを聴かせた4人の独唱陣、と『神の国』という大曲・難曲ながらウィークポイントと呼べる要素がほとんどない。群響も大変上手かった―という訳で、本節冒頭の言といささか被るが、この日の演奏を「偉大な達成」と呼んでも決して大げさではないような出来栄えだった。
ちなみに全曲中で特に印象に残った箇所は、第3部のペンテコストの場において聖霊が降臨する箇所でのダイナミックでありながら全く混濁せず整然としたバランスを保つ大友のタクトの確かさ、同じ第3部でのペトロの長大なソロ(原田圭の共感に満ちた名唱!)、そして第5部最終場面での「主の祈り」の高揚感…。いずれも本当に見事なものだった。これを1回の演奏で終わらせてしまうのは実に勿体無い。2回演奏すれば良かったのに。

 (2018/10/15)