NHK交響楽団 N響「夏」2018|平岡拓也

NHK交響楽団 N響「夏」2018

2018年7月20日 NHKホール
Reviewed by 平岡拓也(Takuya Hiraoka)
Photos by 林喜代種(Kiyotane Hayashi)

<演奏>
ヴァイオリン:バイバ・スクリデ(*)
管弦楽:NHK交響楽団
コンサートマスター:伊藤亮太郎
指揮:ユッカ=ペッカ・サラステ

<曲目>
シベリウス:アンダンテ・フェスティーヴォ JS34b
      ヴァイオリン協奏曲 ニ短調 Op. 47(*)
~ソリスト・アンコール~
ウェストホフ:ヴァイオリン・ソナタ第3番 ニ短調 より 第3曲「鐘の模倣」(*)

ブラームス:交響曲第1番 ハ短調 Op. 68
~アンコール~
シベリウス:鶴のいる風景 Op. 44-2

 

2015年にN響とシベリウス『交響曲第2番』の名演を聴かせたサラステが帰還、十八番のシベリウスとブラームスを手掛ける。本拠地で行われた当公演を皮切りに、大阪・松山・下関と西日本ミニツアーの様相でサラステの音楽が躍った。彼らの演奏にはある種の清涼感があり、この夏の酷暑には清涼剤となったのではないか。もっとも、須臾(しゅゆ)にして消え去ってしまうのが音楽の儚さでもあるが。

シベリウスの母国であるフィンランドの指揮者といっても、現役のマエストロだけで多彩な顔ぶれが揃う。長老格にセーゲルスタム、ヴェテランから中堅がサロネン、サラステ、オラモ、ムストネン、リントゥ、世代を下るとインキネン、ミッコ・フランク、最年少が今年5月に日本デビューを果たしたクラウス・マケラか。彼らの多くをシベリウス音楽院で教えたヨルマ・パヌラ(この夏で88歳になる)も健在である。
こう俯瞰してみるとサラステはヴェテラン寄りになり、順調にキャリアを重ねている指揮者だ。今回取り上げたブラームスの交響曲は既にケルンWDR響で全曲録音しており(Profilレーベル)、まったく意外性のない選曲。颯爽として重苦しさ皆無の演奏だったケルンWDR響との録音同様、N響とも独特の推進力ある音楽を展開した。このオケ自慢の低弦をそれほど強調せず、弦5部のバランスを上声の方に傾けながら進む小回りの利くブラームス『交響曲第1番』、とでも表そうか。それでいて中間楽章の木管のふっくらとした響きにはN響のトラディショナルな美質が滲み出る。終楽章コーダの盛り上がりは俊敏かつ熱っぽかったが、そこで「ワッ」と湧かせて終わりという演奏でもなかった。オーケストラは16型通常配置。

ブラームスは平均的な「良い」演奏の部類に入ると思うのだが、やや地味ながらサラステの共感度がよく伝わってきたのはシベリウスの方だった。冒頭に置かれた「アンダンテ・フェスティーヴォ」のサラリとしつつも熱を孕んだ絶妙な温度感、旋律の歌わせ方と終盤の運びの巧さ。筆者はこの曲に関してはサントリーホールで聴いた尾高/札響の温かな名演が忘れ難いのだが、あちらを楷書とすればサラステは草書。より音楽にグルーヴ感が宿る。またアンコール『鶴のいる風景』(この曲は冒頭に記した2015年客演時も取り上げていた)の冷涼さもよいソルベとなった。唯一残念だったのが、中プロ『ヴァイオリン協奏曲』。サラステとN響の響きの作り方にブレは感じられなかったが、バイバ・スクリデの独奏が厚塗りに過ぎた。冒頭の薄氷を踏むような弱音こそ美しかったが、次第に音程が定まらず演歌節に。以前ベルクの協奏曲の音源で聴いた時はこんなスタイルではなかったのだが―暑さで楽器の調子が思わしくないのか、などと邪推してしまった。

(2018/8/15)