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ウィーン便り|ルプレヒト教会の古楽演奏会|佐野旭司

ルプレヒト教会の古楽演奏会

text & photos by 佐野旭司(Akitsugu Sano)

ウィーン滞在を終えて帰国する日が近づいてきた。この文章がアップされる頃にはもう日本にいる予定だ。今の心境はというと、長かったウィーンでの生活ももう終わりなのか、こちらで出会った人たちとももうお別れなのか・・・といった感慨に浸っている余裕はあまりなく、帰国の準備のことで頭がいっぱいだったりする。

7月半ばには今住んでいる寮を引き払うため、その1か月ほど前から部屋の荷物を少しずつ日本に送り返している。この寮には台車がなく、旅行用のスーツケースに段ボールを入れて郵便局まで運ばなければならない。また郵便局で買った段ボールは日本とは形が違って、ガムテープでとめる必要はないけれど組み立て方が複雑で時間がかかったりと、思わぬところで大変な思いをしたりした。
その他にも6月には奨学金の機関に提出する報告書を作成し、7月には銀行口座の解約、区役所で転出届、寮の保証金返金の申請など諸々の事務作業に追われている。
そしてこの1か月ではそうした作業の合間を縫って研究のために図書館に行ったり、夜は演奏会に足を運んだりしている。

さて演奏会といえば、7、8月には主だったコンサートホールや歌劇場での公演がシーズンオフになる。StaatsoperやVolksoperでは公演が全くなく、楽友協会やWiener Konzerthausでも大きな演奏会は行われない。この時期にウィーンで行われる演奏会といえば、教会のコンサートや小さなサロンコンサートくらいだろうか。
そんな時期にルプレヒト教会では毎年古楽の演奏会が開かれる。ルプレヒト教会は、ウィーンで現存する最も古い教会で、1区のSchwedenplatzの駅から近い小高い場所にある。建物の外観はいかにも古そうで、厳かな印象を受ける。そして中に入ると白い壁に黒い天井が明るいイメージを与え、また色とりどりのステンドグラスに囲まれている。ちなみに演奏中は室内の明かりが消えるけど、今の時期は21時過ぎまで明るいので、演奏が始まるとこのステンドグラスを通して外から光が差し込んで室内が鮮やかに照らされる。またこの教会を出ると、Schwedenplatzの駅やドナウ運河を一望でき、また建物の周りにはレストランなどが立ち並び、特に夜は賑わっている。
この教会での演奏会は大きな会場での演奏会がシーズンオフとなる時期に、6月末から10月初めにかけて毎週月曜日と火曜日に行われる。楽友協会やWiener Konzerthausの夜の演奏会と同じく毎回19時半開演で、入場料は18ユーロと手ごろな値段だ(といっても普段立見席にばかり行っている自分にとっては高い方ではあるけど)。さらに7月には毎週水曜日に22時からのコンサート(こちらは13ユーロ)も行われる。
そして一口に古楽(Alte Musik)といってもグレゴリオ聖歌から18世紀まで幅広い。一番新しいところでは、有名な作曲家だとJ.S.バッハの息子(C.Ph.E.バッハやJ.C.バッハ)あたりだろうか。

今年はその中で、6月25日と7月3日の公演に行ってみた。まず6月25日には今年のシーズンの最初の演奏会が行われたが、女声合唱によるアンサンブルで、グレゴリオ聖歌やジョスカン・デ・プレ、アロンゾ・ムダーラ、ルイス・ミランらの声楽曲(いずれもミサ固有文に基づく)を演奏していた。5人の女性歌手によるSchola Resupinaというアンサンブルに器楽伴奏が加わっており、伴奏のほうは、1人の奏者がビウエラと、Kotamoとよばれる琴のような楽器を持ち替えて弾いていた。
そして7月3日には、Ensenble COLCANTOというアルトとヴァイオリン、チェンバロの3人からなるアンサンブルが、テレマンやヘンデルのカンタータ、バッサーニのモテット、J.S.バッハやテレマン、バードらの器楽曲を演奏していた。
この2回の演奏会だけでも多様な作品に触れることができ、さらに今後も多くの演奏家が色々な曲を演奏する予定だそうだ。ただ私は帰国してしまい、これ以上この演奏会に足を運べないのが残念だ。

一昨年の9月末にウィーンに来て以来1年10か月近くにわたってウィーンで生活をしてきた。そしてその間には多くの演奏会に足を運んだり、クリスマスやイースターのイベントや、舞踏会といったウィーンの伝統文化に触れたり、またウィーン以外の多くの都市を訪れたりと、様々な経験をしてきた。また研究のほうでも、現地でしか見ることのできない一次資料や楽譜を入手することができ、有意義な滞在だったと思う。
ちなみに本誌には今まで書かなかったが、こちらに来てから新たな研究テーマを見つけることができ、これからも引き続きその研究を進める予定である。またウィーンで知り合った人たちと、来年日本で行われる演奏会の企画に携わることになった。このようなわけで、日本に帰ってからもウィーンで行ってきた作業がまだまだ続くことになる。いや、むしろこれらはまだ始まったばかりというべきだろうか。

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ウィーンでの生活も終わり、本誌での私の連載も今回が最後になります。今まで私の拙い文章を読んでくださった皆さま、本当にありがとうございました。
ただ「ウィーン便り」はこれからも続き、来月からは私の友人が新たに連載を始めます。新しい「ウィーン便り」もよろしくお願い致します。

 (2018/7/15)

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佐野旭司 (Akitsugu Sano)
東京都出身。青山学院大学文学部卒業、東京藝術大学大学院音楽研究科修士課程および博士後期課程修了。博士(音楽学)。マーラー、シェーンベルクを中心に世紀転換期ウィーンの音楽の研究を行う。
東京藝術大学音楽学部教育研究助手、同非常勤講師を務め、現在オーストリア政府奨学生としてウィーンに留学中