藤原歌劇団 モーツァルト:《ドン・ジョヴァンニ》|藤堂清

藤原歌劇団・NISSEI OPERA 2018
モーツァルト:《ドン・ジョヴァンニ》(全2幕)

2018年6月30日 日生劇場
Reviewed by 藤堂 清(Kiyoshi Tohdoh)
Photos by 林喜代種(Kiyotane Hayashi)

<スタッフ>
指揮:ジュゼッペ・サッバティーニ
演出:岩田達宗
合唱指揮:河原哲也
美術:増田寿子
衣裳:前田文子
照明:大島祐夫
舞台監督:菅原多敢弘
副指揮:安部克彦、仲田淳也
演出助手:上原真希

<キャスト>
ドン・ジョヴァンニ:ニコラ・ウリヴィエーリ
ドンナ・アンナ:小川里美
ドンナ・エルヴィーラ:佐藤亜希子
ドン・オッターヴィオ:小山陽二郎
騎士長:豊嶋祐壹
レポレッロ:押川浩士
ゼルリーナ:清水理恵
マゼット:宮本史利
合唱:藤原歌劇団合唱部
管弦楽:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団

 

オペラの楽しみは、音楽を聴くことと舞台を見ること、その両方が一体となったときに大きなものとなる。
2017年には、この《ドン・ジョヴァンニ》の演奏会形式による二公演を楽しむことができた。パーヴォ・ヤルヴィ指揮のNHK交響楽団とジョナサン・ノット指揮の東京交響楽団によるもの。どちらも、オーケストラが舞台にのり、歌手はその空いたところで歌ったが、限られたスペースの中で演技し、また照明の工夫もあり、舞台としても楽しむことができた。なにより二人の指揮者の作り出す充実した音楽は聞きものであった。
この日の公演は、オーケストラはピットに入り、舞台をフルに使ったもの。前二者とは違う楽しみがあるだろうと期待して臨んだ。

結果はというと、岩田の演出には驚きはないものの説得力を感じたが、サッバティーニの作り出す音楽が昔風で抵抗を感じる場面が多く、身をゆだねるまでには至らなかった。

演出からふれよう。
舞台上に十字架状のスロープが置かれ、主たる動きはその上で行われる。十字形を浮き上がらせる照明を時々用いたのも効果的。そのまわりの一段下がったところは、主役が隠れる、あるいはコーラスが演技するなど上手に使っている。
冒頭、覆面をしたジョヴァンニを追って出てきたアンナは、舞台前方で抵抗せずに抱きしめられてしまう。騎士長は、ジョヴァンニの右手を傷つけ剣を持てなくし、スロープから追い落とすが、レポレッロの渡したピストルで撃たれ倒れる。
続く場面、エルヴィーラに対しレポレッロが〈カタログの歌〉を歌うところで、舞台前方に幕が降ろされる。そこにはジョヴァンニが征服してきた女性の名前が書かれており、大きなカタログとなっている。この幕はジョヴァンニの「悪行」の象徴として、一部を後ろに持ち上げるなど形を変えながら使われていく。地獄落ちの場面では幕を降ろし、赤く照らし劫火をイメージさせた。
舞台の構造を活かし、台本に忠実な人の出入りを実現。全体的に暗めの照明であったが、必要な場合は個別に照明を当て浮き上がらせていた。
全体として、分かりやすい演出であった。

音楽面では、サッバティーニの指揮をどう評価するかで判断は分かれるだろう。
上で挙げた二つの演奏会形式の演奏では、どちらも早めのテンポでメリハリのある音楽作りをしていた。この日はそれらとは異なるアプローチ。序曲の初めの響きの重さに驚きを感じた。低音域に重心があること自体は不思議ではないが、全体にリズムに弾みがない。
テノール歌手として世界のトップクラスに評価されていたサッバティーニ、指揮者としてもオーケストラのバランスをとる、歌手の歌いやすいようにコントロールするといった技術は高いものがある。だが、彼の音楽作りは20世紀のものと言わざるをえない。
歌手は、ニコラ・ウリヴィエーリのドン・ジョヴァンニ、小川里美のドンナ・アンナほか高いレベルでそろっており、聴きごたえがあった。レポレッロの押川浩士の演技、オーバーにせずに笑いをさそう動きは見事。

舞台全体の統一はとれているし、欠けるところがあるわけではないのだが、指揮者の音楽と筆者の相性が悪かったということにつきる。

(2018/7/15)