上野 de クラシック Vo.15 居福健太郎(ピアノ)

上野 de クラシック Vo.15 居福健太郎(ピアノ)

2018年5月18日 東京文化会館小ホール
Reviewed by 丘山万里子(Mariko Okayama)

<曲目>
モーツァルト:デュポールの主題による9つの変奏曲 ニ長調 K.573
シェーンベルク:6つのピアノ小品 Op.19
シューマン:ピアノソナタ第1番 嬰ヘ短調 Op.11

 

《上野 de クラシック》は東京文化会館が主催する東京音楽コンクール入賞者によるコンサート。シリーズ15回目の今回は、ピアノ部門第3位(コンクール第5回)となった居福健太郎が登場。東京藝高から藝大修士終了、現在東京藝大非常勤講師。
チケット1000円1時間公演とあり、開演前はずらり行列(主に中高年層)。客席もほぼ埋まり、このシリーズが定着していることがわかる。これまでは午前11時開演公演(500円)のみだったが、夜公演への拡張によって期待の若手の演奏を気軽に楽しみたい聴衆がぐんと増えた様子だ。
プログラムに記載されたマナーのお願いも、親切丁寧でわかりやすく、客席も、さあ、今夜はどんな若手を聴けるかな?という温かな期待と和やかさがあり、聴衆参加型<若手育成>が根付きつつあるようだ。
なんとなく、お近くの音楽ファンお誘い合わせ、みたいな下町っぽい空気感もあったりして、いい。

とても巧みなプログラミング。
モーツァルトの変奏曲で、まずクラシカルなピアニズムの美しさを披露。左手のやわらかな打鍵からまろび出る音にこの人の魅力がすぐに伝わってくる。モーツァルトを軽やかに、清澄に、優美に、屈託なく弾き上げるというのは、実は難しく、聴き手もそこで一緒に遊べる、というのはこれまた容易でないのだが、うまい。
次がシェーンベルクの小品6つ(演奏時間6分に満たない)、とは考えたものだ。
「不思議な音楽」との説明が入ったから、聴き手は、へえ、どんな?と興味深そうに。
バラララ、と音がこぼれる。ガラリ、違った世界だ。低音と高音の行き交いの目覚ましいこと!一貫して鳴らされる和音の周りを線香花火みたいにパチパチ発火、発光する音。ガシッとした打鍵に鋭いキレ、といった具合に極小の詩篇を連ね、最後は深いしじまに身をひそめるように終わる。それらが、非常な抒情に満ちていたので、いたく感銘。
音楽がわかっている人が弾けば、こうなる(自己満足でなく)。へえ、の客席も、なるほど、と大いに感心の体。こういう新しい出会い、祝福である(聴衆育成)。
シューマンは作曲家の心の振幅の大きさをダイナミックに、かつ、どうしようもなく傷つきやすい敏感さの部分では、その感覚の襞の隅々まで分け入るような演奏だった。
これぞロマン派ワールド!を存分に爆発させ、拍手喝采。

ふと、考える。モーツァルトの歌、シェーンベルクの歌、シューマンの歌。
こうして聴くと、その時代時代の衣装を着てはいるけれど、それぞれが自分に似つかわしい服を選んで装ってはいるけれど、でも、歌う気持ち、歌いたい心は、みんなおんなじなんだな。
コアなファンでなく、つれづれに音楽を楽しみたい人たちに、これは実によく練られた、周到なプログラミングではないか。
巧み、と言ったのはそういうこと。
人々、大満足の1時間であったと思う。

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 (2018/6/15)