NHK交響楽団 第1887回定期公演 Bプログラム|藤原聡
2018年5月23日 サントリーホール
Reviewed by 藤原聡(Satoshi Fujiwara)
写真提供: NHK交響楽団
指揮:パーヴォ・ヤルヴィ
<曲目>
ストラヴィンスキー:
バレエ音楽『ミューズの神を率いるアポロ』
バレエ音楽『カルタ遊び』
3楽章の交響曲
パーヴォ・ヤルヴィにまさにうってつけと思われるストラヴィンスキーの新古典主義時代の作品3曲によるプログラム。音楽に過分な情動を乗せず、贅肉を削ぎ落として純然たる音響体/運動体として提示するかのようなパーヴォの指揮とこれらの曲が合わない訳がないが、結果は3曲共に大変に高レヴェルの名演奏となった。筆者が聴き得た彼らの実演中でも最高の演奏だったと思う。
タクトを持たずに指揮した1曲目の『ミューズ~』では冒頭の序奏からN響の弦楽器をことのほか柔らかく薫るような音色で響かせていたのが印象的であり、単に引き締めるだけではなく楽曲のイメージを具体的な音響として提示しうる技術とイマジネーションには感嘆するしかない。フレージングも綿密に整えられその音響は透明、曖昧さ皆無。中でも第7曲の『アポロの踊り』やコーダでの躍動感が素晴らしく、16型かと思われるかなりの大編成なアンサンブルにも関わらずそこには停滞や重さなど微塵もない。
2曲目の『カルタ遊び』は当夜の3曲中では一般的に最も馴染みのない曲だと思われるが、この曲ではN響の冴え渡った金管群の演奏を第1に賞賛したい。パーヴォは弦楽器群とこの金管群(殊にトロンボーン)の音響的コントラストを明瞭に意識し、極めて立体的な音響空間を現出させていた。第1のディールの『ジョーカーの踊り』での一糸乱れぬ鉄壁のアンサンブルや第3のディールでの『ワルツ』におけるリズムの扱いの巧みさなど、まさにパーヴォとN響の美質が100%生かされた例と思える。それにしても上手い。
休憩を挟んでの『3楽章の交響曲』。テンポは総じて速めだが、しかし重量感があり、さらには軽やかさとこの上ないリズムのキレもある。これらの点でラトルとベルリン・フィルの演奏をすら凌いでいると思えたほど。冒頭こそアンサンブルが一瞬ずれてヒヤッとさせられたもののその後は快調そのもの。終楽章の輝かしさも最高で、『3楽章の交響曲』の演奏としては最高位にランクされるべきものだったと思う。ストラヴィンスキーがこれを聴いたらさぞ喜んだに違いない。ちなみにパーヴォは来年2月にもN響でオール・ストラヴィンスキー・プログラムを振るが、その中には『春の祭典』も含まれる。この曲に含まれるプリミティヴな要素とモダニティをどういうバランスで表現するのかに興味は尽きない。
(2018/6/15)