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Ensemble Verger:17、18世紀イタリアの名曲を楽しむ|大河内文恵

Ensemble Verger:17、18世紀イタリアの名曲を楽しむ

2018年4月19日 近江楽堂
Reviewed by 大河内文恵(Fumie Okouchi)
Photos by土居健太郎/写真提供:土居瑞穂

<演奏>
アンサンブル・ヴェルジェ:
  土居瑞穂(チェンバロ)
  廣海史帆(バロックヴァイオリン)
ゲスト:
  山本徹(バロックチェロ)
  深井愛記音(リコーダー)

<曲目>
G. フレスコバルディ:《いかなる楽器によっても演奏可能なカンツォーナ集》より カンツォン 第4番
T. メールラ:ラ・ストラーダ カンツォーネ
F. トゥリーニ:3声のソナタ「イル・コリジーノ」
G. B. フォンタナ:ソナタ 第2番
M. ロッシ:トッカータ 第7番
M. ウッチェリーニ:「ラ・ベルガマスカ」によるアリア第5番
D. カステッロ:《現代的なソナタ・コンチェルターテ 第2巻》より ソナタ 第10番

~休憩~

F. ジェミニアーニ:チェロと通奏低音のためのソナタ 作品5 第2番 ニ短調
P. A. ロカテッリ:10のソナタ 作品8 第4番 ハ長調
A. ヴィヴァルディ:フルート、ヴァイオリン、ファゴットまたはチェロのための協奏曲 ニ長調

~アンコール~
T. メールラ:チャッコーナ

 

バロックヴァイオリン(廣海)とチェンバロ(土居)のアンサンブルで始まったコンサートは、土居のトークをはさみ、ゲストの山本と深井を迎えてメールラの『ラ・ストラーダ』へと続く。この曲では、ヴァイオリン、リコーダー、チェロによる掛け合いが楽しく、次のトゥリーニの『イル・コリジーノ』でも4人のバランスがよく、曲の途中で2拍子系から3拍子系に変わるところや、最後の装飾の部分でイタリア的な愉しさを醸し出していた。

フォンタナの『ソナタ』はヴァイオリン用に書かれたものだが、本日はリコーダーで。G管のアルトリコーダーを使い、深井いわく「軽くて響きが柔らかい」音で演奏された。非常に素直で良い音で曲が進んでいく。主張し過ぎず、さりとてつまらなくもない絶妙さで、ポロポロとリコーダーの音が動いていくところが心地よい。

ロッシのトッカータは土居のチェンバロ独奏。これまでの快い曲調とは打ってかわって、突然止まったり、旋律がどこに転がっていくのか予測不可能で、土居いわく「ちょっと狂ってる」曲なのだが、それをいかにも劇的に弾くのではなく、淡々と何事もなかったかのように弾く土居の佇まいとのギャップがおもしろかった。

再び4人によるアンサンブル2曲。まずはウッチェリーニで、17世紀イタリアっぽい明るく軽い曲で、聴きながら思わず身体が動いてしまいそうになる。続くカステッロの曲はこれとは対照的に短調でダークサイドをみせつける。全体に泥臭い印象で、リコーダーは日本の笛、ヴァイオリンとチェロは流しのヴァイオリン弾きのような音色で、異空間に迷い込んだような気持ちになった。

後半はすべて18世紀の作品。ジェミニアーニのチェロ・ソナタはチェロのソロから始まるのだが、もう始まった瞬間から心を奪われた。奏者の知性がそのまま演奏に現われており、こちらの心まで浄化されたような気がした。

つづくロカテッリもヴィヴァルディも、曲そのものが明快で聴きやすい上に、演奏も18世紀イタリアの軽快さを出していて、文句なしに楽しめる。ふと、前半と後半とでは、廣海のヴァイオリンの構えが違っていたことに気づいた。17世紀ものの時には肩の下のほうに楽器を置いて柔らかく弾いている一方、18世紀ものでは、肩のもう少し上のあたりに置いてモダンの楽器に近い弾き方だった。また、アンサンブル全体も、17世紀と18世紀とでは世界が違う。17世紀はintimate(親密な)感じで、奏者同士がお互いにコミュニケーションをとりつつ駆け引きを楽しみながら弾いているのに対し、18世紀はベクトルが外に向いていて、人に聴かせるための音楽になってきているのがわかる。同じイタリア・バロックといえども、これだけ違うのかと実感できたのは本日の一番の収穫だったかもしれない。

アンコールは、チラシに載っていたものの本プログラムにはなかった『チャッコーナ』。軽妙で楽しくてアンコールにぴったりの選曲。早くも次回が楽しみになってきた。

(2018/5/15)