ブロムシュテット NHK交響楽団 第1882回定期公演|藤堂清
2018年4月14日 NHKホール
Reviewed by 藤堂 清(Kiyoshi Tohdoh)
写真提供: NHK交響楽団
<演奏>
指揮:ヘルベルト・ブロムシュテット
管弦楽:NHK交響楽団
<曲目>
ベルワルド:交響曲 第3番 ハ長調《風変わりな交響曲》(ブロムシュテット校訂版)
ベルリオーズ:幻想交響曲 作品14
この日は、ヘルベルト・ブロムシュテットがNHK交響楽団の桂冠名誉指揮者となって初めての定期公演、交響曲2曲によるプログラム。
ベルワルドは1796年生まれのスウェーデンの作曲家。交響曲第3番《風変わりな交響曲》は1845年に作曲されたが、初演は60年後の1905年、彼の死後であった。その際指揮者により改変されていたが、ブロムシュテットが校訂を行い、ベルワルドの意図に沿った版が1965年に作成されている。一方、ベルリオーズ(1803年生まれ)の《幻想交響曲》(初演1830年)は、ブロムシュテットも、ベルリン・フィルなどさまざまなオーケストラと演奏してきている。彼の指揮によるこの2曲のコンサートは、ストックホルムとアムステルダムで5月後半に予定されている。
前半のベルワルドは3楽章構成。第1楽章の冒頭、ピアニシモで始まる4度の下降音形2小節(付点四分音符と八分音符の音形を3回、同じ音の動きを八分音符で2度繰り返す)が低弦から高弦へ木管楽器へとだんだん高くなりながら引き継がれていく。それが管楽器へと続き、ほかの主題が加わった後も、何度となく顔を出す。この単純なテーマの繰り返しと展開はベートーヴェンの影響といわれれば納得できる。ブロムシュテットは校訂者としての自信もあるのだろう。オーケストラをぐいぐいと引っ張っていく。展開部での強奏、冒頭の音型に戻るところでのピアニシモへの移行など、ダイナミクスの大きな変化が随所に聴かれる。
第2楽章は、アダージョ、スケルツォ、アダージョという構成。緩徐楽章とスケルツォを融合したような形となっている。穏やかに始まりゆったりと流れてきた曲想は、ティンパニの強打で破られ一変するが、楽章の後半でふたたびゆったりとした音楽に戻る。この楽章半ばでの切り替えでは予想を上回る急展開。聴衆を驚かせるという点ではハイドンの《驚愕》に似ている。第3楽章は劇的に始まり、躍動するリズムが続く。金管のファンファーレに導かれ、弦楽の急速なパッセージの終結部へと向かう。弦楽器のはやいキザミや管楽器の唐突にも感じられる強奏は、ブロムシュテットの指示によるもの。弛緩するところなど、まったくない。
後半の《幻想交響曲》でも、指揮者のきびきびとしたテンポが大きな魅力。フォルティッシモとピアニッシモが交互の小節に指定されているところや、スフォルツァンドとデクレシェンドが小節ごとに繰り返される箇所など、細かな指定を丁寧に弾き分けさせる。それにより音の表情にメリハリが付き、推進力が生みだされる。特別なことをするわけではなく、ベルリオーズの書いていることをより忠実に聴かせようとしているだけなのだが、それが新鮮に響く。
ベルリオーズはベートーヴェンの交響曲の影響を受けてこの曲を作ったというが、ハープ、イングリッシュホルン、チューバ、シンバル、鐘といった楽器を新たに使うとともに、編成も拡大している。この曲でベルリオーズは、ベートーヴェンの世界から大きく踏み出したのだと強く感じた。
NHK交響楽団も指揮者の要求によく応えていた。ゲスト・コンサートマスターとしてライナー・キュッヒルが座っていたこともよい効果を生んでいた。
ブロムシュテットが90歳という年齢を感じさせない元気な姿をみせてくれたこと、また細部をおろそかにしない音楽を聴かせてくれたことに感謝したい。
(2018/5/15)