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Back Stage|漆原朝子のシューマン。今、ふたたび・・・・

漆原朝子のシューマン。今、ふたたび・・・・

text by 小島  裕(Yutaka Kojima)
写真提供:Kojima Concert Management Co.,Ltd  

シューマンは生涯に3つのヴァイオリン・ソナタを書いた。第1番と第2番は1851年、第3番はライン川に身を投げる前年の1853年に書かれている。
しかし、第3番は没後100年を経た1956年にようやく出版されるまでの長い間、闇の中にあったこと、さらに一部に演奏至難な箇所があるため、今日でも演奏されることは少なく、まだその存在への認知すら未だ充分ではない。
生涯を賭けた大作『ゲーテの“ファウスト”からの情景』も同じ1853年に完成されており、最期の作品となったヴァイオリン協奏曲とともに、やがて悲劇的な終末を迎えるシューマンの『遺言』のような作品である。

1997年に大阪を本拠地として設立されたコジマ・コンサートマネジメント(KCM)は社名の通り、当初は専らコンサートの開催運営受託業務を主業としてスタート。5周年を迎えた2002年当時、ホールの主催・共催公演を通じて密接な関わりを持っていた神戸新聞松方ホールで何か明確なヴィジョンに基づく記念公演の開催ができないか?と思い巡らしたところ、これに先立つ2000年に大阪音楽大学との共催公演として開催した、英国のフロレスタン・トリオによる「シューマン:ピアノ・トリオ全曲演奏会」が大成功を収め、聴衆のみならず、アーティストたちにとっても鮮烈な「初体験」だったとして大変感謝されたことを思い起こし、その続編的な発想で、このシューマンのヴァイオリン・ソナタ全3曲をKCMの5周年記念公演としてとりあげられないだろうか?と思い、漆原朝子さんにご相談をしたのが全ての始まりであった。
彼女がベリー・スナイダーとのデュオでシューマンの第2ソナタを見事な構成感を持って素晴らしく演奏していたことを知っていたし、KCMの設立以前、私が勤務していた音楽事務所の所属アーティストであり、当時私の隣席に座っていた同僚が彼女の担当マネジャーであったことも好都合であった(翌年、その担当マネジャーが退職の後、漆原朝子のマネジメント業務そのものも KCMに引き継がれて現在に至る)。また、私はこの企画に際して、シューマン研究の世界的権威である前田昭雄博士(ウィーン大学名誉教授)にもご相談。激励をいただき、公演当日のプログラム解説とその後にリリースされたCDへの執筆をお願いすることもできた。

このようにして、漆原朝子は10歳まで過ごした神戸の街での実は初めてのリサイタルとして、2002年6月19日に神戸新聞松方ホールで、ベリー・スナイダーとともにシューマンが残したヴァイオリンとピアノのための作品を全て一夜に演奏した。当時としてはあまり類例のない、しかし本来必然的であるはずの『全曲演奏』は、大きく注目されることとなり、全国から熱心な聴衆が神戸に集まって演奏会が開かれたことは鮮烈な光景であった。新聞・雑誌などでも絶賛されたこの公演の模様は現在でもフォンテック・レーベルによるライヴCDで聴くことができる。またKCMではシューマンの生誕200周年を記念して2010年10月に東京文化会館でも同一内容の公演を開催。この模様はNHK-FM「ベスト・オブ・クラシック」で放送されたが、反響が大きかったらしく、幾度も再放送された。

その後、KCMは大正13年竣工の洋館建築である大阪倶楽部を「演奏家との実験劇場的な場」として活用する KCM Concert Series at Osaka Club (2003年-2017年 計129公演)を開催したり、現在ではザ・フェニックスホールにおける KCM Concert at The Phoenix Hall, Osaka〜関西圏の最大拠点 梅田で展開する藝術音楽、さらに京都コンサートホールや京都府立府民ホール・アルティ、さらに東京のホールでも主催・共催公演を行う一方、国内外のアーティストのマネジメント業務も数多く受託。さらにコンサートマネジメント及びアーティストマネジメントという二つの業務と関連したレコーディング・プロジェクトも多数手がけるなど、今日ではあくまでも大阪を拠点にしながらも関西圏に限定されない広域・広範な活動を行うに至っている。

本年12月、漆原&スナイダーが 京都で “オール・シューマン・プログラム”を演奏するのは関西圏では前述の2002年神戸公演以来のこと。
昨年はエルガー:ヴァイオリン協奏曲のライヴCD(共演:ジョセフ・ウォルフ指揮=兵庫芸術文化センター管弦楽団)を日本人ヴァイオリニストとしては実に24年ぶり二人目のリリースを行い、大きな賞賛を得るなど、独自の深化を続ける漆原朝子が巨匠ベリー・スナイダーといかなるシューマンの世界を創出するか? 今から楽しみである。

小島  裕(コジマ・コンサートマネジメント  代表取締役)

(2018/5/15)

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公演情報
漆原朝子&ベリー・スナイダー
〜シューマン:ヴァイオリン・ソナタ全3曲&3つのロマンス〜
2018年12月21日@京都コンサートホール アンサンブルホールムラタ
http://www.kojimacm.com/project/urushi_snyder_project/uru_sny_pro18.pdf