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鈴木理恵子&若林顕デュオ・リサイタル|齋藤俊夫

鈴木理恵子&若林顕デュオ・リサイタル

2018年3月16日 紀尾井ホール
Reviewed by 齋藤俊夫(Toshio Saito)
Photos by 林喜代種(Kiyotane Hayashi)

<演奏>
ヴァイオリン:鈴木理恵子
ピアノ:若林顕

<曲目>
ブロッホ:無伴奏ヴァイオリン組曲第1番(ヴァイオリン独奏)
モーツァルト:ヴァオリン・ソナタ ニ長調 K.306
レスピーギ:ヴァイオリン・ソナタ ロ短調
武満徹:『悲歌』
フランク:ヴァイオリン・ソナタ イ長調
(アンコール)
パラディス:『シシリエンヌ』
シューベルト:『アヴェ・マリア(エルンの歌第3巻)』
モンティ:『チャルダッシュ』

 

鈴木理恵子と若林顕は近年夫婦での活躍が目覚ましいヴァイオリニストとピアニスト。国境と時代を越えた今回のプログラムに期待して足を運んだ。

リサイタルの始まりは鈴木による、ブロッホの『無伴奏ヴァイオリン組曲第1番』。強烈な表現主義的「訴え」とバッハ的論理性が同居する、迫力ある厳しい演奏が鮮烈な印象を残した。

強靭なブロッホの次には軽やかなモーツァルト。若林のピアノの音が丸く、金平糖のように甘く愛らしい。鈴木のヴァイオリンも先の鋭さはなくなり、優しく歌いかけてくる。第2楽章、ヴァイオリンの曲線美にほうっとため息をつく。第3楽章は踊るような楽想と、ハキハキと語りかけてくる楽想が交互に現れるその弾き分けが完璧。終曲は華やかに、しかし決して過剰にならずに。愛せずにはいられないモーツァルトであった。

前半最後はレスピーギ。第1楽章冒頭はこれぞ終期ロマン派というように暗くも妖しくつややかに。実にヴァイオリンが色っぽく、そしてピアノも綺羅、星の如しといった風情の絢爛たる弾きっぷり。最後はヴァイオリンがゆっくりと去り、ピアノも穏やかに終わる。
第2楽章、優しい優しいピアノ独奏の後にヴァイオリンが入る。甘美な中にも切なさを含んでヴァイオリンが歌う。短調に転じて2人とも激しく。そしてまた長調に戻り、笑いながら泣くように静かに終わる。
第3楽章は一転してピアノの重厚な短調の和声進行(これがパッサカリアのバッソ・オスティナートとなる)で始まり、ヴァイオリンも負けじと雄々しくかき鳴らす。しかし長調に転じての静謐な楽想のヴァイオリンの音色のなんと美しいことか。フィナーレは2つの楽器だけでよくぞこれほどと思えるほどに堂々と、荘厳に。ロマン派的な感情表出を色彩豊かに弾ききったことに感銘。

後半始めは武満のごく短い『悲歌』。緊張感が張り詰めた、一音たりとも揺るがせにできない、ヴァイオリンの悲しい、そして孤独な歌に息を呑んだ。時が止まったかのような体験をした。

プログラム最後はフランク。第1楽章冒頭のふわっとしたピアノ、そしてヴァイオリンに一瞬で別世界に連れていかれる。
第2楽章のアレグロも決して熱くなりすぎることなく、あくまでエレガントで夢幻的。ピアノのペダル・半ペダルの加減がこの音楽作りに寄与する所多しと見た。
第3楽章は「レチタティーヴォ」と指示されてる通り、ヴァイオリンが朗々と、しかし技巧を華やかに聴かせるのではなく、語りかけるように歌う。しっとりとした音色に心安らぐ。
第4楽章はやや古典派風に始まり、主題の反復・展開を繰り返し、2人がカノンで睦まじく語り合ったり、あるときはひそやかに、あるときはおおらかに合奏する。最後は2人できらびやかにアレグロ・モルトを舞って全曲が終わる。装飾過多になることなく、されど詩情豊かな演奏であった。

アンコールの『シシリエンヌ』『アヴェ・マリア』で聴衆の心を落ち着かせ、最後の『チャルダッシュ』で技巧を見せつけて拍手喝采で終演した。贅沢とすら言えるかもしれないほどの充実感を味わえた一夜であった。

                                        (2018/4/15)