東京二期会 ベッリーニ:《ノルマ》|藤堂清

東京二期会オペラコンチェルタンテ・シリーズ(セミ・ステージ形式)
ベッリーニ:《ノルマ》(全2幕)

2018年3月18日 Bunkamura オーチャードホール
Reviewed by 藤堂 清(Kiyoshi Tohdoh)
Photos by 林喜代種(Kiyotane Hayashi)3/16GP
Photo by 堀 衛/写真提供:二期会(3/18 大村博美&富岡明子)

<スタッフ>
指揮:リッカルド・フリッツァ
演出:菊池裕美子
映像:栗山聡之
照明:大島祐夫
合唱指揮:佐藤 宏
舞台監督:幸泉浩司

<キャスト>
ポリオーネ:樋口達哉
オロヴェーゾ:狩野賢一
ノルマ:大村博美
アダルジーザ:富岡明子
クロティルデ:大賀真理子
フラーヴィオ:新海康仁
合唱:二期会合唱団
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団

 

東京二期会が新たに始めたオペラコンチェルタンテ・シリーズ、その第1回を飾るにふさわしい充実した公演であった。

ベッリーニの歌劇《ノルマ》といえば、昨年7月と10月にマリエッラ・デヴィーアをタイトルロールにむかえ、日生劇場、びわ湖ホールなどで行われたすばらしい公演を聴いたばかり。その印象が残っている時期に、今までベルカント・オペラを取り上げることが少なかった二期会が演奏会形式で上演するというので、その結果がどう出るかと少し不安な気持ちもあった。しかも、公演直前にこの日ノルマを歌う予定であった歌手が降板、前日にも同役を歌う大村が二日続けて出演すると発表されていた。

舞台は前方にオーケストラが並び、その後ろに3メートルほどの幅の台が置かれ、ソリストはそこに立ち、演技することになる。合唱はさらにその後ろに控える。映像はスクリーンなどは用いず、後方の壁に映し出される。このためホールの音響に影響が及ぶことはない。

序曲の引き締まったダイナミクスを大きくとった音に、まずオッと思う。《ノルマ》のようなベルカント・オペラ(というカテゴライズが適切かどうかは別として)は、歌手の力量に依るところが大きいと言われるが、指揮者とオーケストラの重要性はヴェルディやワーグナーといった後の時代のオペラと変わるものではない。
背景に映される映像は序曲の間は写実的でかなり動きのあるもの。きれいな風景と馬の集団、そのうちの一頭の白馬がクローズアップされていく。このオペラとどうつながりのだろうかと頭の片隅で考えながらも、早めのテンポの序曲にグイグイと引き込まれた。

序曲が終わりまず登場するオロヴェーゾ役の狩野賢一、なかなか立派な声のバス。リズムが重くならないのもよい。合唱との掛け合いとなるが、しっかり聴こえる。オーケストラの後ろに歌手が立つ形なので、声が聞こえにくくなるのではないかとも考えたが、オーケストラの上を越えて飛んできており、そのような心配は無用であった。
オロヴェーゾが去ると、続いて登場するのはポリオーネとフラーヴィオ。ポリオーネを歌う樋口達哉、二期会期待の新人として登場する機会も多い。初めのころは高音に苦労するところもあったのだが、最近は安定した声を聴かせてくれるようになってきた。昨年、日生劇場での《ルサルカ》の王子役でも充実した歌であったが、この日もしっかり響く中低音域と立派な高音を楽しませてくれた。彼の良い点にはイタリア語が美しいこともあげられる。この役、マリオ・デル・モナコやフランコ・コレッリといったドラマティック・テノールによって歌われることが多かったこともあり、そのイメージが定着しているようだが、樋口のようなより軽快な動きのできる声、リリコからリリコ・スピントの方が合っているように思う。

アダルジーザを歌った富岡明子は明るい声の軽めなメゾ・ソプラノ、ロッシーニを持ち役とし俊敏な動きが得意。日本でこの役を歌ったフィオレンツァ・コッソットのような強い声はないが、この役には高めの音が多く、軽めのソプラノの方が適しているという意見もあり、実際、チェチーリア・バルトリのノルマとスミ・ジョーのアダルジーザという録音も発売されている。富岡は高音域も強く、ノルマとの二重唱における高音も難なくこなしていた。
ノルマの大村博美は、2011年にローザンヌ、2013年にトゥーロンでこの役を歌った経験もあってか、二日続きということを感じさせない歌。第1幕で登場後すぐに歌われる〈清らかな女神よ〉では長いフレーズを弱声をコントロールしつつ歌い切った。アダルジーザとの二重唱では二人の声の質が近いこともあり、よく溶け合った響きが聴けた。一方、最後の場面でポリオーネにアダルジーザをあきらめるよう迫るところでは声自体に圧力を感じた。

この日の成功が歌手の充実による部分は大きいが、最大の功労者は指揮のリッカルド・フリッツァである。早めのテンポで、メリハリをつけてしっかり鳴らす。歌手が歌いやすいように配慮はするが、彼らが細かい音をきちんと響かせるためにテンポをゆるめたりといった妥協はしない。オーケストラを主体に音楽を作りあげていって、それが舞台全体を引き締まったものとした。東京フィルハーモニー交響楽団も彼に良く反応していた。

セミ・ステージ形式ということで、小道具の類は使わないもののソリストは舞台上での動きが要求され、ふつうのオペラ上演とは異なるが、演技しながら歌っていた。映像に関しては、歌が入るようになってからは照明の色を変化させることが中心となり、音楽の流れとの間で違和感を感じることはなかった。最後、ノルマとポリオーネが火刑台へ向かうところでは炎の映像となるが、これは予想どおり。どのように映像を作り、使っていけば効果的なのか、まだまだ工夫の余地はありそうだ。

今まで上演したくても費用などの点でできなかった演目はいろいろあると思う。このオペラコンチェルタンテ・シリーズで積極的に取り組んでいってほしい。

関連評:ベッリーニ:歌劇《ノルマ》|藤堂清

(2018/4/15)

(c) 堀 衛