Back Stage|受け継いでいく – 秋山和慶から下野竜也へ|宇津志忠章

受け継いでいく – 秋山和慶から下野竜也へ

text by 宇津志忠章(Tadaaki Utsushi)

2年前の4月、1998年から首席指揮者・ミュージックアドバイザーに、そして2004年からは音楽監督・常任指揮者として広島交響楽団の演奏の向上と活動内容を牽引してきた秋山和慶が平成28年度で勇退し平成29年度(2017年4月)からは終身名誉指揮者に、そして新たに音楽総監督として下野竜也を迎えることの発表を行った。

楽団の顔とも言える指揮者に誰を迎えるのか、あるいは迎えることができるのか、一般的なオーケストラという演奏形態においては周囲からの関心が高い話題であろうし、楽団としても当然ながら重要な課題である。

秋山和慶

日本指揮者協会の第五代会長も務め、指揮者界を代表するひとり秋山先生。20年に及ぶ楽団との関係を築いたことからもその実力と人柄をご想像いただけるのではないかと思う。巨匠をつかまえてとご叱責を受けそうだけれども、個人的には実父と同世代ということもあってか、「パパ・ハイドン」ならぬ「パパ・アキヤマ」と勝手に親しみを持ってご一緒させていただいている。門外漢の私にとっては、秋山先生から伺う音楽や楽壇のお話しは貴重で示唆に富む内容のものであるし、どちらかというと寡黙な秋山先生が趣味の話題を楽しそうにされるのを伺っているのも楽しい時間である。

下野竜也&広島交響楽団

そんな秋山先生からバトンを受け継ぐことになった下野竜也。的確なタクトとユニークなプログラムで注目され、親しみやすい人柄も相まって多くの楽団と良好な関係を持っている下野さんが、40代後半という音楽家としてもいよいよ深みを増していく時期にどのオーケストラと共に歩みを進めるのか、おそらく多くの音楽関係者が注目し、オケ業界関係者は気をもんでいたのでは思う。若かりし頃にプライベートな合宿にも参加し「センセイ」と仰ぐ秋山先生が手掛けるオーケストラであること、指揮者デビューの頃から毎年定期演奏会にも声をかけてくれてプログラミングも任せてくれたオケであること、下野さんが広響の指揮者にと決心した理由であった。楽団として着実に発展しているという自負はあるが、広響は発展途上のオーケストラでもある。人とのつながりを大切にし、受けた恩義に応えたい、まったくもって下野さんらしいと思った。彼と話しをすると楽しい。背後にあるのは、相手に対する気配りとだといつも感じる。冗談ばかり言って常に周囲を楽しませようとする下野さんだが、極々内輪での時にこんなエピソードを教えてくれた。

若いときに秋山先生のお宅に弟子が集まった時、「音楽を自分を売るための道具にしてはいけない。それだけは忘れてはいけない」と先生に諭されてみんなで泣いた。

2年前、指揮者交代についての取材を秋山先生と下野さんとに受けていただいた。長時間にわたるインタビューであった。その中で秋山先生が自身の師であり、桐朋学園の創設者、齋藤秀雄氏からの教えを語った。

「音楽を己の立身のために、私欲の為に使うようなことをしてはならない。それだけは絶対にしてはいけない」

その言葉を黙って頷きながら秋山先生の横で聞いている下野さん。

受け継がれていく。

あらためてそう強く感じた瞬間であった。

下野さんが、広島交響楽団・音楽総監督就任に際して寄せた言葉は『変えてはいけないもの』。
~ 私は音楽総監督として、『変えてはいけないもの』を見つめ直し、そこにこそオーケストラの本質があると思っています。変えるのではなく、共に成長していきたいと思います。~

どんな組織でもこれまでとは違う色を出したいといったことはあることだろうし、それが改善であり、発展であるとすることはありがちな弁であると思うが、往々にして内実はその時にたずさわる者の自己顕示欲ということもおこりうるかもしれない。「バックステージ」ということなので、あえて書かせていただくと新旧の指揮者がお互いに認め合い、本当に近い距離で手を携えてということはそうそうあることではないように思う。
「受け継いでいく」、あらためて深く重い言葉である。

この春からの新シーズン、4月と5月に下野と秋山が続けて定期演奏会に登場する。
まず、音楽総監督2年目のスタートとなる下野竜也の第379回定期演奏会(4/15)。下野が定期で取り上げ楽団との成長の足跡とするとしているブルックナー。今回は6番で、楽団としては実に約22年振りに取り組むこととなる。
北米での活躍も重要な功績である秋山和慶は第380回定期演奏会(5/25)で、生誕アニヴァーサリーのオール・バーンスタイン・プログラムのタクトをとる。セレナーデでソロを務めるのは広響第一コンサートマスター就任4年目となる佐久間聡一。そしてメインは交響曲第2番「不安の時代」。
楽団の一ページを刻む、下野と秋山の想いが詰まったプログラムである。

宇津志忠章 (広島交響楽団事務局事業担当)

(2018/3/15)

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公演情報
第379回定期演奏会
4/15@広島文化学園HBGホール
指揮/下野竜也  ピアノ/アンドレ・ラプランド
モーツァルト:ピアノ協奏曲第12番
ブルックナー:交響曲第6番

第380回定期演奏会
5/25@広島文化学園HBGホール
指揮/秋山和慶  ピアノ/サラ・デイヴィス・ヴュクナー
<バーンスタイン生誕100周年記念>
バーンスタイン:「キャンディード」序曲
バーンスタイン:セレナード(独奏ヴァイオリン、弦楽、ハープと打楽器のための)
バーンスタイン:交響曲第2番「不安の時代」
http://hirokyo.or.jp/concert/teiki