ヴォーカル・アンサンブル・カペラ定期公演 ラ・リュー没後500年記念公演 ラ・リューの聖母ミサ|大河内文恵

ヴォーカル・アンサンブル・カペラ定期公演 ラ・リュー没後500年記念公演 ラ・リューの聖母ミサ

2018年1月8日15:00 日本基督教団 九段教会
Reviewed by 大河内文恵(Fumie Okouchi)
写真提供:フォンス・フローリス

<演奏>
ヴォーカル・アンサンブル・カペラ
音楽監督:花井哲郎

<曲目>
ラ・リュー:ミサ《アヴェ・マリア》(ミサの形式による)

~アンコール~
ラ・リュー:Ave regina caelorum

 

1997年に花井哲郎によって創立されたヴォーカル・アンサンブル・カペラは、ルネサンスまでの宗教曲を主要レパートリーとしている。彼らの演奏形態は独特である。中央に大きな譜面台を置き、メンバー全員がそれを囲んで演奏する。譜面台に載っている楽譜は現代譜ではなく、当時の記譜法で書かれたオリジナル譜である。そして、一番の特徴は、ミサ曲などをいわゆる通常文の部分だけではなく、入祭唱からIte missa estまでのミサのすべてを再構成して演奏することである。

同一のプログラムによる3回の演奏会のうち、九段教会での演奏を聴いた。地下鉄の九段下の駅から靖国神社を見ながら右手に折れると瀟洒な教会があらわれる。決して大きくはないが、教会の中にはステンドグラスが印象的な空間が広がっている。

2018年に記念年を迎えた作曲家のうちで、一般にはほとんど名前が知られていないと思われる作曲家の一人であるラ・リューは、ヴォーカル・アンサンブル・カペラにとっては以前から取り上げてきた馴染みの作曲家であるという。それを知っているコアなファンが多かったのか、九段教会には2階席まで埋まるほどの聴衆が詰めかけた。

開演前には音楽監督である花井による解説がおこなわれた。作曲家ラ・リューおよび、本日取り上げる聖母ミサ曲についてわかりやすく語られ、各楽章に出てくるAve Mariaの旋律をプログラムに印刷されたオリジナル譜を見ながら、聴衆みんなで歌ってみるという実技付き。これが後ほど非常に意味をもつ。

グレゴリオ聖歌の入祭唱から始まった演奏は、キリエからアニュス・デイに至る通常文の間にグラドゥアーレや福音書朗読などが入り、通常文以外の部分は1人による朗唱もしくは、1人の朗唱に合唱が応答する形で進められる。天井から降ってくる響きに心が洗われるような感覚に浸っていると、ふとあることに気づいた。

ラ・リューのミサ曲『アヴェ・マリア』には各楽章の冒頭に、先ほどみんなで歌った旋律が音価やリズムを変えながら折り込まれているのだが、そこに来ると耳が反応するのだ。「あ、来た!」と。そこで初めて、いわゆる「モットー・ミサ曲」と呼ばれる、各楽章の冒頭を同じ旋律で始めるミサ曲とは、こういうものだったのか!と気づかされた。

ミサ曲を通常文だけ演奏していると、「モットー」の存在は同じ旋律を使うことによって楽章間に連関を持たせるという音楽的配慮にしか聞こえないが、ミサの中に置いてみると、この「モットー」が聴こえることによって、ここから音楽部分が始まることが自然にわかる仕組みになっている。そこに宗教的などんな意味があるのかは、キリスト教徒でない筆者にはわからないが、音楽的配慮以外の意味があることだけはわかる。

今回、予定されたメンバーのうち、花井尚美が怪我のため出演できず、当初3人で予定されていた一番上の声部は2人で歌われた。アンサブルとして成り立ってはいたが、時折、上声がもう少し出ていたらと思う場面がなくはなかった。次回は完全な形での演奏を聴きたいとも思う。

最後に記念年の作曲家を取り上げる意義について少しふれたい。アニバーサリーの作曲家を取り上げるということは、いろいろな仕掛けとして作用する。まず、人気の作曲家に「アニバーサリー」という箔をつけて一層の注目を集めること、次に知られている作曲家の知られざる名曲を取り上げて新たなレパートリーを発掘すること、そしてあまり知られていない作曲家をこの際だからと取り上げることである。第3のやりかたは集客という面から躊躇する向きもあろうが、長い目で見れば、レパートリーや聴衆の拡大につながり、未来の音楽を豊かにする可能性を大いに孕む。年頭の演奏会に敢えてラ・リューを取り上げた英断に敬意を表したい。

(2018/2/15)