パオロ・ファナーレ&菅 英三子 デュオ・リサイタル|藤堂清

パオロ・ファナーレ&菅 英三子 デュオ・リサイタル

2018年1月19日 紀尾井ホール
Reviewed by 藤堂 清(Kiyoshi Tohdoh)
Photos by 林喜代種(Kiyotane Hayashi)

<演奏>
パオロ・ファナーレ(テノール、1)
菅 英三子(ソプラノ、2)
浅野菜生子(ピアノ)

<曲目>
ドニゼッティ:《愛の妙薬》より<人知れぬ涙> (1)
ドニゼッティ:《ランメルモールのルチア》より<あたりは沈黙に閉ざされ> (2)
ロッシーニ:《セビリャの理髪師》より<空はほほえみ> (1)
ヴェルディ:《リゴレット》より<愛こそ命、心の太陽だ> (1,2)
ヴェルディ:《リゴレット》より<慕わしい人の名は> (2)
ドニゼッティ:《ラ・ファヴォリート》より<天使のごとく純粋な> (1)
——————–(休憩)———————
モーツァルト:《後宮からの逃走》より<コンスタンツェよ!君に再び会えるとは!> (1)
モーツァルト:《後宮からの逃走》より<ああ、私は恋をして幸せでした> (2)
トマ:《ハムレット》より<私も仲間に入れてください> (2)
グノー:《ロメオとジュリエット》より<ああ、太陽よ昇れ> (1)
グノー:《ロメオとジュリエット》より<あなたを許します> (1,2)
—————–(アンコール)——————
プッチーニ:《ラ・ボエーム》より<冷たき手を> (1)
モーツァルト:《魔笛》より<復讐の炎は地獄のように我が心に燃え> (2)
グノー:《ファウスト》より<この清らかな住まい> (1)
アルディーティ:口づけ(2)
ヴェルディ:《リゴレット》より<女心の歌> (1)
ビゼー:《真珠とり》より<耳に残るは君の歌声> (1)
ヴェルディ:《ラ・トラヴィアータ》より<乾杯の歌> (1,2)

 

パオロ・ファナーレ、イタリア・パレルモ生まれの35歳の若手、明るく軽めのテノーレ・リリコ。一方、菅英三子は58歳のベテラン、コロラトゥーラを得意とするソプラノ。20年以上前になるだろうか、アルフレード・クラウスのリサイタルで重唱の相手として、若い菅が起用された。この日はその時とは立場が逆になった形。ファナーレは2016年7月に同じ紀尾井ホールでソロ・リサイタルを行っており、低音域から高音域まで安定した美しい声、そして余計な表情付けのない歌に感心したおぼえがある。

プログラムはすべてオペラから採られている。アリアが中心だが、二重唱も2曲盛り込まれている。前半はイタリア・オペラが中心、後半はドイツ・オペラとフランス・オペラという構成。

ファナーレは、この日も最初の<人知れぬ涙> から弱声をコントロールし、盛り上げるところとの対比は見事。
しかし二曲目のロッシーニの<空はほほえみ>では、前半のゆったりとしたところはよかったのだが、コロコロと転がす部分では少し苦労しているようであった。
前半の最後のアリア、プログラムには “Spirto gentil” とイタリア語のタイトルが書かれていたのだが、歌ったのはドニゼッティのオリジナルであるフランス語版 “Ange si pur”の方。このオペラ、近年ではフランス語上演の方が多くなってきているから、若いファナーレが持ち役とするならばこちらを選ぶことになるだろうと納得。旋律線を美しく聴かせ、高音もきっちり決めた。
後半は《後宮からの逃走》から<コンスタンツェよ!君に再び会えるとは!> 。彼のドイツ語歌唱は初めて聴いたが、語尾の子音がときどき不明瞭になるくらいで、なめらかな歌い口はこのベルモンテのアリアにふさわしいもの。
グノーの《ロメオとジュリエット》から<ああ、太陽よ昇れ> もお得意のレパートリーだろう、弱声の美しさが心地よく、また高音も楽々と歌い上げている。

一方の菅、<あたりは沈黙に閉ざされ>で高音域に強いところをみせた。低音域で響きが薄くなるのが少し残念なところ。
ジルダはレパートリーに入っているものだろう、細かな表情付け、安定した高音、まったく年齢を感じさせない。
後半は、《後宮からの逃走》からコンスタンツェのアリア、すぐ続いてトマの《ハムレット》からオフェーリアの長大なアリア<私も仲間に入れてください> を歌い、しっかりとしたコロラトゥーラの技巧を聴かせてくれた。

前半の二重唱では事故があった。
はじめはジルダだけが舞台に出て “signor nè principe, io lo vorrei” と歌い出し、”t’amo”と歌おうとするところにマントヴァ公爵が声をかぶせる、はずだったのだが彼が現れず、歌手もピアニストもストップして楽屋の方をうかがう。そうなったところでようやくファナーレが登場、彼の謝る姿に怒る人はいなかった。初めから歌い直しとなったが、二人とも気合を入れたように情熱的な歌となった。
出を指示するステージ・マネージャの役割を果たす人がいなかったのだろうか?プロのコンサートではめったにみない光景。
プログラムは、《ロメオとジュリエット》から、追放されるロメオがジュリエットの寝室に忍び込み歌われる二重唱で盛り上がって終わった。オペラの舞台を彷彿させる歌唱であった。

アンコールは7曲。二人が得意な曲を歌いついでいった。高音の得意なファナーレのハイC、転がしの得意な菅のコロラトゥーラ。会場も熱くなっていく。
なかでもファナーレが歌った《真珠とり》の<耳に残るは君の歌声> は、弱声のコントロール、息の長いフレーズと、彼の最良の姿を見せてくれた。

軽めの声の二人が、それぞれにふさわしい曲の中で、多様な姿を聴かせてくれたことに感謝したい。

(2018/2/15)