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Books | クラシックコンサートをつくる。つづける。|藤堂 清

クラシックコンサートをつくる。つづける。
地域主催者はかく語りき

平井 満・渡辺 和 共著
水曜社
2017年7月/ 2500円 ISBN 978-4-88065-403-4

text by 藤堂清(Kiyoshi Tohdoh)

本の帯の言葉がこの本の内容を伝えている。「ホールだけが、クラシックコンサートの場ではない。地域に根ざしたコンサートの主催者たちを訪ね、新しい文化事業のあり方とまちづくりを提言する。」
共著者の一人平井満は、1990年に「鵠沼室内楽愛好会」を立ち上げ、60人規模のサロン・コンサートを継続的に開催してきているほか、近年は神奈川県の三つの公共ホールのコンサート作りにも携わってきた。一方、渡辺和はクラシック音楽のフリージャーナリストとして活動、音楽誌への寄稿や著述活動をしている。
この二人が、日本各地で活動している小規模民間主催者を訪ね、どんなことが起きているか話を聞き、可能であればコンサートを鑑賞して、主催者がどのような動きをしているか、取材してまとめたのが本書である。

バブル崩壊以前、地方にも多くの公共のホールが作られた。文化行政の推進の名のもとにクラシックコンサートも支援を受け、ホールの稼働の一翼を担った。しかし、バブル崩壊後の税収減少により真っ先に切られたのが「文化」であった。残ったものは、営利団体によって行われている大都市のコンサートホールを中心とするクラシックコンサート。
ここで取り上げられているのは、行政の支援を受けたり、利潤を追求するといったものとは異なる、地方都市で行われてきているさまざまな形のコンサート活動、そして、それを継続するための主催者の努力や思いである。

本書ではまず平井の筆で、「あるプロデューサーの取り組み」として、コンサートづくりを始めた経緯、活動を継続するためにどのような考えで進めてきたかが述べられる。出演者の選定基準、演奏曲目の決め方、財源を安定させる方策といった基本的なことがらのほか、チラシやプログラム作成、アクシデント対応という主催する者が心得ておくべき情報が盛り込まれている。

ついで、1996年から活動し会員数500名の「葉山室内楽鑑賞会」の事務局長、レセプション担当、バックステージ担当の三名と平井、渡辺の座談会が収められている。ホールの予約のむずかしさなど、聴く立場では気付けない課題が述べられている。さらに大きな問題として、「後継者」問題も話題となっている。

本書の第3章は、二人の取材のまとめであり、全国20の小規模民間主催者の状況が書かれている。大きく二つのタイプがあるという。一つは「小規模民間鑑賞団体」あるいは「楽友協会」とでも呼ぶのがふさわしい鑑賞者が集まり運営するもの。もう一つは「サロン・コンサート」とでもいうような、場所を提供する人が主催者となるものである。もちろん明確に区分することがむずかしいケースもあるだろう。いくつかの例はこの二つとは別建てで説明されている。
番外編としてホノルル室内楽シリーズを取り上げ、アメリカの非営利民間鑑賞団体の内実を報告している。「楽友協会」的な存在と近いものと考えられる。

最後に「地方民間鑑賞団体はどこへ行く」と題する、平井、渡辺両氏の対談で締めくくられる。

東京や大阪といった大都市での音楽鑑賞に慣れてしまうと、次から次へと提供されるものという意識が強いが、そういった環境にはない地方では、「聴きたいものを聴く」ために努力している人々がいて、さまざまな工夫をして継続してきている。この本はその実態を生の情報として提供してくれる。整理された形でない分、冗長に感じられるところもあるかもしれないが、個別の事情が分かるという点で、一次資料としての意味は大きい。
「クラシックコンサートをつくる。つづける。」ことには、演奏家の選定、費用の確保といったすぐ思いつくこと以外にも、多くの課題がある。それが地域によって異なることも気付かせてくれる。平井を始めとする小規模民間主催者たちの個別の創意工夫は、彼ら自身にとっても新たな取り組みのきっかけを与えてくれるだろう。一方、各地で本書に述べられているような草の根的なコンサート活動が拡がることは、クラシック音楽を愛好する人を増やしていくことにつながっていくにちがいない。

(2018/2/15)