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オルフェオとエウリディーチェ(北とぴあ国際音楽祭2017)|大河内文恵

オルフェオとエウリディーチェ(北とぴあ国際音楽祭2017)

2017年12月10日 北とぴあ さくらホール
Reviewed by 大河内文恵(Fumie Okouchi)
Photos by 林喜代種(Kiyotane Hayashi)/12/6GP

<演奏>
寺神戸亮(指揮)
オルフェオ:マティアス・ヴィダル(テノール)
エウリディーチェ:ストゥキン・エルベルス(ソプラノ)
アムール:鈴木美紀子(ソプラノ)
合唱・管弦楽:レ・ボレアード
振付:中原麻里
ダンサー:ラ ダンス コントラステ

 

北とぴあ国際音楽祭のオペラ公演。今年はグルック作曲の『オルフェウスとエウリディーチェ』がパリ版で上演された。パンフレットの解説にもあるように、この作品は日本人による最初のオペラ上演(明治36年)で取り上げられた作品でもあり、この時代のオペラとしては比較的頻繁に上演されるが、パリ版を見られる機会は貴重である。というのも、イタリア語で歌われるヴィーン版と違って、パリ版はフランス語であること、バレエのシーンが多く挿入されていることによって、上演に困難を伴うからである。

今回はセミ・ステージ形式とはいえ、映像や照明がふんだんに使われ、ほとんどそれを感じさせない作りになっていた。ただ、序曲の間、映像がせわしなく動くために、音楽がまったく耳に入ってこず、映像に完全に支配されてしまったのはもったいなかった。1幕の途中の雲が出てくる映像あたりから、映像の動きのスピードが音楽よりもゆっくりになり、そちらに気を取られることはなくなったが。映像そのものの完成度は高かったので、作品全体における位置づけがうまくいっていれば、問題なかったのだと思う。

オルフェオ役のヴィダルはささやくような最弱音が魅力でかつフルヴォイスもしっかりしており、主役としての役割を充分果たしていた。エウリディーチェ役のエルベルスは、2幕まではほとんど口を利かない役ながら、動きと表情だけでエウリディーチェの純真さをうまく表現していた。エウリディーチェがオルフェオに対する不安を訴える3幕前半では、このオペラはエウリディーチェが主役だったか?と思わせるほどの存在感をもっていた。

グルックのこの版では合唱の良し悪しが1つの鍵となっている。歌の面では合唱に瑕疵はない。気になったのは動きである。合唱隊が舞台上にいるときに、ダンサーも同時に同じ空間にいることも多く、そうでなくてもダンサーの洗練された動きを見た後では、合唱隊のぎこちない動きは目についてしまう。たしかに、合唱全員でオルフェオに詰め寄っていく場面など、動きが効果的だったシーンもあるが、ダンサーとの身体の使い方の違いが際立ってしまう場面がしばしばみられた。

たとえば、両腕を回しているシーンでは、ダンサーは腕そのものではなく肩や背中の筋肉を使って腕を動かしているが、合唱隊は腕だけを動かしている。また、中腰から立ち上がるシーンでは、ダンサーは地面に対して垂直になった体幹を一本の垂線のようにして立ち上がるが、合唱隊は体幹がまっすぐでない上に、前側にぐいっと円を描くように立ち上がっていた。これらのシーンでは、出演者の動きに関して総合的に判断する人を立てたほうがよかったのではないかと感じた。

一方、コントラステのステージングは見事で、とくに『妖精の踊り』のシーンでは溜め息が出るほどの美しさで、この場面を見ることができただけでも、ここに足を運んだ甲斐があったと思えるほどであった。

動きという面も含めると、もっとも出色だったのはアムール役の鈴木であった。歌い手としては時折アンサンブルに声が負けてしまうこともあったが、動きが素晴らしいのである。ダンサーと歌い手との動きの溝を埋める役割を見事に果たしていた。

最後のカーテンコールも音楽つきでおこなうなど、出演者・スタッフがみんなで作り上げている雰囲気にはとても好感をもった。その意味では総合プロデューサーを置かないことがプラスに働いていた。バレエ入りのオペラ上演は、オペラ部分とバレエ部分の接合が非常に難しいが、その面では非常にうまくいっていたと思う。来年はモンテヴェルディの『ウリッセの帰還』をやるという。どんな舞台になるか楽しみである。

(2018/1/15)