サラ・ケイヒル ピアノリサイタル「植物文様を弾く」|齋藤俊夫

サラ・ケイヒル ピアノリサイタル「植物文様を弾く」

2017年11月28日 豊洲シビックセンターホール
Reviewed by 齋藤俊夫(Toshio Saito)
写真提供:ムジカキアラ

<演奏>
サラ・ケイヒル(ピアノ)

<企画・主催>
藤枝守、ムジカキアラ

<演奏順番、曲目(すべて藤枝守作曲)>
1.『植物文様第19集:パターンA「オリーヴの枝が語る」”The Olive Branch Speaks.”no.1』(2009)
2.『植物文様第19集:パターンB「オリーヴの枝が語る」”The Olive Branch Speaks.”no.2』(2009)
3.『植物文様第19集:パターンC「オリーヴの枝が語る」”The Olive Branch Speaks.”no.3』(2009)
4.『植物文様第19集:パターンD「オリーヴの枝が語る」”The Olive Branch Speaks.”no.4』(2009)
5.『ピアノ作品集II:パターンA』((2000)
6.『植物文様第13集:パターンD』(2003)
7.『植物文様第7集:パターンA』(1997)
8.『植物文様第7集:パターンB』(1997)
9.『植物文様第15集:パターンB』(2007)
10.『植物文様第15集:パターンC』(2007)
11.『植物文様第21集:パターンA』(2010)
12.『植物文様第21集:パターンB』(2010)
13.『植物文様第5集:パターンD』(1996)
14.『植物文様第26集:パターンA「茶の植物文様」”Tea Pattern no.1”』(2017)
15.『植物文様第26集:パターンC「茶の植物文様」”Tea Pattern no.3”』(2017)
16.『植物文様第16集:パターンA』(2007)
17.『植物文様第16集:パターンB』(2007)
18.『植物文様第16集:パターンC』(2006)
19.『ピアノ作品集I:パターンB』(1999)
20.『ピアノ作品集I:パターンC』(1999)
21.『ピアノ作品集I:パターンD』(1999)
22.『植物文様第11集:パターンD』(1999)
23.『ピアノ作品集II:パターンD』(2000)
24.『植物文様第20集:パターンB』(2009)
25.『植物文様第20集:パターンD』(2009)

 

今回サラ・ケイヒルによって演奏された藤枝守の小品集『植物文様シリーズ』は、前衛音楽でも実験音楽でもないことは言わずとも一聴すれば明らかであろう。かといってクラシック音楽の伝統を固く守った音楽というわけでもなく、またポピュラー音楽の要素をクラシック音楽と融合させたなどと喧伝される(昨今ありがちな)音楽とも異なっている。調性もあり、和声もあり(といっても伝統的な機能和声ではなくもっと自由な和声であるが)、旋律もあり、リズムもあり、対位法もあり、新しいものなど何もない(ピアノ以外の楽器で演奏される際は平均律ではない調律がされることはあるが)、はずなのに何故か聴き入り、感じ入ってしまう。

今回第1曲『植物文様第19集:パターンA「オリーヴの枝が語る」』の、ゆっくりと息を吸い、またゆっくりと吐くような低音の反復の上で奏でられる旋律にまず胸を打たれる。なんと素直な、飾り気のない、それでいて美しい音楽であることか、と。第5曲『ピアノ作品集II:パターンA』は沈鬱な、いや、違う、沈鬱な黒ではなく、寂しい透明の音楽。第10曲『植物文様第15集:パターンC』はフォルテで奏でられるがそこに力みや荒ぶる感情がなく、ただ、音の花園が広がる。第11曲『植物文様第21集:パターンA』は民謡風、あるいは子守唄のよう。第18曲『植物文様第16集:パターンC 』は対位法の使用法などがルネサンス期の器楽曲を思わせるが、しかし、それともまた異なる藤枝の音楽。第19曲『 ピアノ作品集I:パターンB 』でも、明るい曲調であっても決して「陽気」にはならない。

『植物文様』のタイトル通り、自然界の文様のように、例えばロマン派音楽のような感情表出はしないのだが、しかし風景写真を見たときのような不思議な感動が喚起される。音楽を建築に喩えることもあるが、建築物のような重厚なものではなく、植物、花、それも野山に咲いた小さな花を並べたような作品集であった。

藤枝の、そしてケイヒルのこの澄み切った音楽は、やはり「賛辞」として「現代音楽」の範疇に入れるべきであろう。古典派・ロマン派音楽にも、前衛・実験音楽にも、またポピュラー音楽にも、あるいはバロック音楽そしてそれ以前の古楽にもないもの、つまり新しい個性的なもの、現代でしかありえない何かが藤枝の音楽には確かに「ある」のだ。
だが、その何かを歴史的必然性という形で一般化することはするまい。例えば前衛の時代が終焉した後の音楽だ、などとは。1995年の第1集から今まで、藤枝はただ己の道を歩んで迷わなかった、その事実には歴史を超えた彼の作曲家としての内的必然性がある。そしてその内面に忠実にあり続け、従って克己をし続けた彼が20年以上書き続けてきたこの『植物文様』シリーズは、紛れもなく「現代音楽」の美しい花束である。