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NHK交響楽団第1871回 定期公演 イワン雷帝|大河内文恵

NHK交響楽団 第1871回 定期公演 Cプログラム
プロコフィエフ(スタセヴィチ編)オラトリオ版 イワン雷帝

2017年11月17日 NHKホール
Reviewed by 大河内文恵(Fumie Okouchi)
Photos by 林喜代種(Kiyotane Hayashi)

<演奏>
トゥガン・ソヒエフ指揮/NHK交響楽団
スヴェトラーナ・シーロヴァ(メゾ・ソプラノ)
アンドレイ・キマチ(バリトン)
合唱:東京混声合唱団
児童合唱:東京少年少女合唱隊
語り:片岡愛之助

 

映画『イワン雷帝』のためにプロコフィエフが作曲した音楽を、彼の没後にスタセヴィチが編曲し再構成したオラトリオ。最終的な形としてはプロコフィエフの意志にもとづくものではないが、随所にプロコフィエフの諧謔性が顔を出し、存分に楽しめた。

始まった瞬間、「今日はおとなしめバージョンなのかな」と感じた。 CDなどで聴くド派手な感じがなかったからだ。しかしそれはほんの序章に過ぎなかった。第4曲で再び金管楽器によるイワンの主題が出てきたときには、さすがN響上手いなぁと思わされたし、鳴り響く鐘の音、続いて入ってくる合唱も素晴らしかった。

6曲目「いくとせも」の中間部には、3曲目の「大海原」が編成を拡大されて再登場するが、ここでは3曲目のときにはなかった、映画音楽独特の壮大さが感じられた。第9曲の「聖愚者」はバレエっぽい躍動感にあふれた曲だが、本日の演奏ではそのような感じはなく、むしろ第10曲の「白鳥」の合唱の日本的な響きが印象的であった。

第13曲「イワン、貴族らに懇願す」ではおそらくソヒエフ仕込みと思われる、ロシア的な響きが堪能できた。最後の19曲とフィナーレの盛り上げ方もさすがといった様相で、全体的にロシア色がさほど強くなく、ところによってはもっとハメを外してもよいのではないかと思わなくもなかったものの、要所要所はきっちり押さえた演奏だったと思う。

曲の途中や合間に入っている語りは、日本語に翻訳されたものが歌舞伎役者片岡愛之助によって語られた。ロシア音楽に歌舞伎の語り、水と油のような両者だが、意外と相性は悪くない。むしろ、物語の進行が日本語でおこなれるため、字幕にかじりついていなくて済むぶん、音楽に集中できたように思われる。もちろん、ロシア語を解する人にとっては、原語のほうが良かったのだろうが、大多数のロシア語を聞き取ることができない人にとっては、よい選択だったと思う。

というのも、片岡は歌舞伎役者だけあって間の取り方や声の抑揚が絶妙で、音楽の織りなすストーリーとぴったり合いつつ、過剰過ぎずに盛り上げてくれるため、初めて聞く人にも入り込みやすかったのではないか。

演奏全体のお行儀の良さと語りを日本語にしたあたり、かなり「守り」に入った演奏ではあった。大規模な曲を休憩なしで一気に聴かせる力量はN響ならではだろうし、ここまでまとめられるのもさすがといえるが、だからこそ、少々破綻してもいいから、もっと突き抜けた演奏を聴いてみたかったと言ったら贅沢だろうか。