NISSAY OPERA 2017 ドヴォルザーク:《ルサルカ》|藤堂清
NISSAY OPERA 2017
ドヴォルザーク作曲 オペラ《ルサルカ》全3幕
(チェコ語原語上演・日本語字幕付)
2017年10月12日 日生劇場
Reviewed by 藤堂 清(Kiyoshi Tohdoh)
Photos by 林喜代種(Kiyotane Hayashi)
<スタッフ>
指揮:山田和樹
演出:宮城 聰
空間構成:木津 潤平
照明:沢田 祐二
衣裳:高橋 佳代
舞台監督:幸泉 浩司、蒲倉 潤
演出助手:手塚 優子
合唱指揮:水戸 博之
<キャスト>
ルサルカ:田崎 尚美
王子:樋口 達哉
ヴォドニク(水の精):清水 那由太
イェジババ(魔法使い):清水 華澄
外国の公女:腰越 満美
料理人の少年:小泉 詠子
森番:デニス・ビシュニャ
森の精1:盛田 麻央
森の精2:郷家 暁子
森の精3:金子 美香
狩人:新海 康仁
管弦楽:読売日本交響楽団
合唱:東京混声合唱団
ハルモニウム:平塚 洋子
物語は人間の世界と水や森の精たちの異界、その境界を乗り越えようとする話。世界中に同種のものは多く、アンデルセンの「人魚姫」もその一つ。
ルサルカは水の妖精、湖に水浴びにきた王子に恋し、人間となることを望む。恋が成就するまで口がきけなくなるといった厳しい条件を受け入れ、イェジババに秘薬を作ってもらう。人間となったルサルカは、王子の花嫁として城に入るが、王子の心は外国の公女に移ってしまう。彼女はふたたび水の中に戻り、永遠に呪われた生を続けることとなる。王子を殺せばその運命から解放されると言われるが拒絶する。公女に見放され、ルサルカを失った王子が水辺にやってきて、彼女と再会する。彼女の接吻は王子に死をもたらすと告げられるが、彼はそれによる安息を求める。
日生劇場の客席内部は細かなタイルを張った波打つような壁面となっている。それから続くようにみえる壁が舞台上に設営され、これにより客席と舞台が一続きの空間となり、演奏者と聴衆を近づけていた。両側の壁の間に急な階段を設け、歌手が演技できる場所はそこに限られてしまったが、声を客席に届けるという点では反響版を背負っていることで、歌いやすい状況となっていた。
オーケストラ・ピットも客席とほぼ同じ高さとなっており、舞台の上手・下手に管楽器奏者等を上げていたが、高さの差を少なくし、オーケストラとしての一体感を保つよう配慮されていた。
この日の演奏はオーケストラも歌手もよくコントロールされていた。ピットの位置に合わせ指揮台も高い位置にあり、山田の姿がよくみえる。オーケストラにも舞台にも、こまかく指示を出していた。二月に藤原歌劇団の《カルメン》を振ったときは、歌手が入ると安全運転という感じで音楽の勢いが弱まる場面もあったのだが、今回は全体を把握し大きな流れを作り出していた。
歌手も、経験の少ないチェコ語による歌唱にもかかわらず、充実した歌唱を聴かせた。
ルサルカの田崎は、第1幕のアリア〈月に寄せる歌〉で想いをしっとりと歌い上げた。第1幕後半から第2幕終盤まで「歌えない」役だが、そこでも演技により気持ちや状態を表現していた。細めだが輝きのある声は今後を期待させる。
王子の樋口は、中低音域が充実しており、厚みのある声が活きていた。最後の場面、初めてルサルカとの二重唱となるが、弱声でも響きがやせず、二人の気持ちが通じ合うさまを伝えた。
イェジババの清水華澄、ヴォドニクの清水那由太、歌う場面は少ないが、ともにインパクトのあるものであった。狂言回し的な役割の、料理人の少年の小泉と森番のビシュニャ、演技では笑いをとるところもあったが、声は立派なもの。もっと大きな役で聴いてみたい。
演出面でみれば、階段の半ばにあるセリが異界からの登場、階段上の壁の間からは人間が登場とおおざっぱに言える。照明で人間界と異界を区別してはいたが、舞台の構造は変わらず、また動く範囲も限定されており、単調な印象はぬぐえなかった。それでも、全体としては美しい舞台であり、ストーリーを自然に受け止められるものであった。
高いレベルの公演であり、これに続く今後の日生劇場のオペラ上演、大いに期待したい。