関西弦楽四重奏団 ベートーヴェン弦楽四重奏曲全曲ツィクルス第1回|能登原由美

関西弦楽四重奏団 ベートーヴェン弦楽四重奏曲全曲ツィクルス第1回

2017年11月27日 ザ・フェニックスホール
Reviewed by 能登原由美(Yumi Notohara)
写真提供:Kojima Concert Management Co.,Ltd.

<曲目>
いずれもベートーヴェン作曲
弦楽四重奏曲第1番へ長調 op. 18-1
弦楽四重奏曲第10番変ホ長調 op. 74「ハープ」
弦楽四重奏曲第12番変ホ長調 op. 127

<出演>
ヴァイオリン:林七奈、田村安祐美
ヴィオラ:小峰航一
チェロ:上森祥平

 

その名の通り、関西で活動する奏者により2012年に結成されたカルテット。大阪交響楽団でコンサートマスターを務める林七奈、京都市交響楽団ヴァイオリン奏者の田村安祐美、同団首席ヴィオラ奏者の小峰航一に加え、主にソリストとして活動するチェロの上森祥平という面々だ。ベートーヴェン弦楽四重奏曲のツィクルスはすでに京都で一度完結したとのことだが、この度、場所を大阪に移して新たなツィクルスを開始した。これから2019年までに全6回にわたって全曲演奏予定とのこと。その第1回を聞いた。

初回ということもあるせいか、第1番の冒頭では硬さもみられた。本来の力がようやく発揮されたと思われるのは、第3楽章あたりからではないだろうか。ファースト・ヴァイオリンによるリードが功を奏し、うまく流れが形成された。その後はダイナミクスやアーティキュレーションにメリハリを効かせ、躍動的なアンサンブルを展開する。各奏者の能力の高さゆえでもあろうが、何よりも四人の奏者の呼吸が一体化しているのがよくわかる。このカルテットの強みといえるだろう。

続く第10番では、ヴァイオリンのファーストとセカンドが入れ替わる。プロフィールにパートが明示さていないところをみると、トップは固定していないのかもしれない。奏者の音質と曲の性質を鑑みてのことであろうが、このようにトップを固定させないことが果たして良いのかどうか、少し疑問に思った。というのも、やはり冒頭部分が淀みがちで、音楽の流れがなかなか伝わってこない。緩やかな和音進行による序奏部ということもあるかもしれないが、主導者の見えないもどかしさがふつふつと湧いてくる。あるいは、このカルテットの強みとして先に挙げた「呼吸の一体化」という点が、逆にこのカルテットにとって弱みになっているのであろうか。

呼吸の一体化、それは見方を変えれば全体の調和を何よりも尊重するという意識でもある。もちろんアンサンブルにとっては重大な問題だが、一方で、個々の音楽の発露を不自然に抑えかねない。ここに旋律と伴奏といった二項対立的な解釈を持ち込めば、こういった力学は一層助長されるだろう。旋律線以外のパートは従属的な役割に徹し、互いにもたれあってしまう。和音進行になると音楽の流れが見えにくくなるのは、このためではないだろうか。

ただし、これは個々の奏者というよりアンサンブルとしての問題であろう。例えば、第10番の第3楽章中間部では、チェロに始まる主題とその対旋律がポリフォニックに展開する。表情豊かな上森のチェロに牽引され、次々と紡ぎ出されていく各パートはくっきりとそれぞれの顔を持ち、見事な対位法を作り上げていた。このような自立した動き、各奏者のうちにある音楽の流れを他の部分でももっと尊重して良いのではないだろうか。同時に、トップを固定させることでアンサンブルの目指す音楽の形をより鮮明に打ち出す必要はないだろうか。

もちろん、日頃は別々の活動を行う奏者によるアンサンブル作りの難しさはあるだろう。けれどもベートーヴェンの弦楽四重奏曲全曲演奏という、長く険しい旅路が聴き手とともに待ち構えている。その始まりであるからこそ、あえて厳しく励ましたい。