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兵庫芸術文化センター管弦楽団 第101回定期演奏会|大田美佐子

兵庫芸術文化センター管弦楽団 第101回定期演奏会

2017年11月19日 兵庫県立芸術文化ホール
Reviewed by 大田美佐子(Misako Ohta)
写真提供:兵庫県立芸術文化センター

<演奏・出演>
キース・ロックハート (指揮)
反田恭平 (ピアノ)
兵庫県芸術文化センター管弦楽団

<曲目>
ガーシュウィン: パリのアメリカ人
ガーシュウィン: ラプソディー・イン・ブルー
-休憩-
コープランド: 交響曲第三番

 

兵庫県立芸術文化センターで、兵庫芸術文化センター管弦楽団(PACオーケストラ)の第101回定期演奏会を聴いた。若い世代の演奏家たちの教育をひとつの目的として、3年任期のオーケストラの定期演奏会は、それぞれの指揮者が得意とする演目が多く、よく練られたプログラムで、レパートリーも多彩。ホールの人気シリーズになっている。今回もボストン・ポップスを長年率いてきたキース・ロックハートを指揮に迎え、ガーシュウィンとコープランドというアメリカン・クラシックなプログラム。《ラプソディー・イン・ブルー》のソリストには、若い世代の実力派として人気を誇る反田恭平を迎え、自然と期待は高まった。

《パリのアメリカ人》では、20世紀前半の大陸と新大陸の対話が、響きとなってくっきりと聴こえるダイナミクスがとても魅力的。パリのタクシーに始まり、ストラヴィンスキー、ブラームス、ベートーヴェンの面影がユーモラスに覗く。後半の「アメリカ」が響く部分では、ジャズの血潮が騒ぐだけでなく、中間部のアンダンテでは思わず感極まるほどの叙情性を感じさせ、陰影のある演奏。「書かれたジャズ」ならではの複雑さと緻密さの響宴が、なんとも清々しい後味を残す名演であった。

変わって《ラプソディー・イン・ブルー》では、この作品の決めどころ、冒頭の妖艶で哀愁帯びるクラリネットの響きから、ピアノ・ソロが加わると、オーケストラは反田の新鮮な持ち味を発揮するに充分なスペースを与える渋い脇役に徹した。ロシアで修行を積んだ反田のソロは、ゆったりとした間の取り方かと思うと、一転、一糸乱れぬ正確で速いパッセージに狂気を感じさせる。その独特な感情のアクセルの踏み方にも、ロックハートの指揮棒は深く包み込んでみせた。その結果、反田独特の間の取り方が全体の絶妙なスパイスとなって、場内は興奮に包まれた。サッカーなら、ファンタジスタというところか。アンコールはモーツァルトのトルコ行進曲。軽やかな風に舞う羽のようなピアニズムに、ジャンルを越境する反田のチャレンジスピリットを感じた。

後半のコープランドは、響きを丁寧に重ねつつ、壮麗なフィナーレでは金管楽器の響きが冴え渡った。全体のプログラムとしても、実に聴き応えのある構成であった。アンコールはオーケストラに編曲したガーシュウィンの《プレリュード第1番》。ロックハートの指揮に導かれたPAC独特のポジティヴなアウラが、古き良きアメリカの音楽にこめられた精神をさらに輝かせる印象深いコンサートだった。