ヴェルディ『オテロ』演奏会形式|大河内文恵

ヴェルディ『オテロ』演奏会形式

2017年9月8日 Bunkamuraオーチャードホール
Reviewed by 大河内文恵(Fumie Okouchi)
Photos by 上野隆文/写真提供: Bunkamura

<演奏>
アンドレア・バッティストーニ(指揮・演出)
ライゾマティクスリサーチ(映像演出)

オテロ:フランチェスコ・アニーレ
デズデーモナ:エレーナ・モシュク
イアーゴ:イヴァン・インヴェラルディ
ロドヴィーゴ:ジョン ハオ
カッシオ:高橋達也
エミーリア:清水華澄
ロデリーゴ:与儀巧
モンターノ:斉木健詞
伝令:タン ジュンボ
合唱:新国立劇場合唱団
児童合唱:世田谷ジュニア合唱団
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団

 

演奏会形式とは思えない充実したスペクタクルだった。昨年10月、同じオーチャードホールで『イリス』の演奏会形式上演を成功させたバッティストーニが今度はど真ん中のイタリア・オペラをもって再び乗り込んできたのだから、期待するなというほうが無理というものだ。

今回は主要歌手の交代もなく、気鋭の映像クリエイター真鍋大度率いるライゾマティクスリサーチによる映像付きと盛りだくさんだった。バッティストーニが指揮台に上がると同時に音楽が始まる。このオペラは序曲がなく、短い序奏の後すぐに歌に入るが、もったいぶらずに始まることで、スッとオペラの世界に入っていける。舞台は前半分にオーケストラが陣取り、その後ろの高いところに通路があり、その奥が合唱の定位置。歌手はオーケストラの前もしくは、オーケストラと合唱の間の通路で歌う。歌手の立ち位置が2箇所にわたるため、舞台を横に使うだけでなく縦の動きや人物関係ができ、演奏会形式にありがちな平板さを回避している。後ろの通路に出てきて歌い始めたオテロ(アニーレ)の存在感は、これぞオテロ!と思わせるだけのものがあった。

演奏会形式のオペラでは、舞台装置や衣装は最低限のものとなる。男性歌手は燕尾服、女性歌手もシンプルなドレスと登場人物のキャラクターはあまり反映されない。『オテロ』というオペラは男性の登場人物が多く、一部名前が似ていることもあって、登場する人物と彼らの関係を把握することがしばしば難しい。普通のオペラなら衣装で見分けがつくのだが、今回は衣装も同じ、背格好も似ていたため、男性の人物関係を把握するのに少々手間取った。

それでも、演奏会形式なのに第1幕から飽きずにみられたのは、演奏のレベルの高さゆえだろう。通常のオペラだとオーケストラはピットに入っているため、歌手との意思疎通が難しく、1幕目に噛み合わない箇所がみられることは珍しくない。しかし、今回は演奏会形式でオーケストラと歌手と指揮者がすぐそばにいるという利点を最大限活かし、最初からぴったり息があっていた。

主役3人の歌手はいずれも素晴らしく、オテロのアニーレはもちろん、イアーゴのインヴェラルディは大きな体が演技にもいかされ、ときに主役を食うほどの存在感をみせた。もっともこのオペラはオテロが主役であるにもかかわらず、イアーゴもそれに劣らず重要人物に描かれているため、演出によってはオテロよりもイアーゴが主役にみえてしまうことも多い。今回もともすればインヴェラルディが目立ってしまいがちだが、2幕最後のオテロとイアーゴの二重唱の絶品さも含め、オテロが主役にみえるよう周到に計算されていたようだ。

男性たちに隠れがちではあるが、女性歌手が今回はとてもよかった。特に第4幕のデズデーモナの「アヴェ・マリア」には番号オペラでもないのに自然に大きな拍手が起きた。前半の黒い衣装から後半の白い衣装への衣装替えもこれに一役買っていたと思う。また、歌う場面は少なかったが、エミーリアの清水は第4幕のイアーゴの悪巧みを暴露するシーンでは見事な歌唱と演技力をみせた。

最後にやはり映像についてふれておこう。デズデーモナの「アヴェ・マリア」のシーンでたくさんの蝋燭が映し出される場面は幻想的でとても効果的だったが、他のシーンは果たして、これらの映像は必要だったのだろうかと疑問に思った。もちろん、舞台装置がない分を映像で埋めるという試みそのものは悪くないが、今回の場合は、演奏と演技ですでに高い完成度を持っており、そこに映像が加わると「過剰」な感じがしてしまったことは否めない。とくに指揮者の動きに連動して映像が変化する部分では、3D映像を見ることがあまり得意でない筆者にとっては、ときに映像酔いになることもあり、見ていられない瞬間があったことも事実である。映像そのものの完成度が低いのなら、「なくしてしまえ」と言えばすむ話だが、映像のクオリティが高かったゆえに、「過剰」感により拍車がかかってしまったのかもしれない。もちろん、映像があることによって、より楽しめたという観客のほうが多かったのだろうが、たとえば映画館では3D上演と2D上演とを選べるように、映像多めと映像少なめの上演を設定してもらえたらよかったかもしれない。ひとつの意見として参考にしてもらえると幸いである。