東京フィルハーモニー交響楽団 第112回東京オペラシティ定期シリーズ|藤原聡

東京フィルハーモニー交響楽団 第112回東京オペラシティ定期シリーズ 

2017年9月21日 東京オペラシティコンサートホール
Reviewed by 藤原聡(Satoshi Fujiwara)
Photos by 上野隆文/写真提供:東京フィルハーモニー交響楽団 

<演奏>
東京フィルハーモニー交響楽団
指揮:チョン・ミョンフン
ピアノ:イム:ジュヒ 

<曲目>
ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第3番 ハ短調 op.37
(ソリストのアンコール)
J.シュトラウス:『トリッチ・トラッチ・ポルカ』(ジョルジュ・シフラ編曲版)
ベートーヴェン:交響曲第3番 変ホ長調 op.55『英雄』 

 

チョン・ミョンフンは2002年~2003年に掛けて東京フィルとベートーヴェンの交響曲全曲ツィクルスを敢行しており、『英雄』は2002年の第1夜で演奏されている。従って、当夜の『英雄』は15年振りの再演ということになる(もっとも18日にはオーチャードホールでも演奏しており、7月にはミューザ川崎でも取り上げているから当夜、と言うか「今年の英雄は」と言うべきか)。また、この日は前半の協奏曲において本年17歳となる韓国のピアニスト、イム・ジュヒが登場するが、この来日が日本デビューであり、非常な逸材として名を上げつつあるので大いに楽しみ。 

前半では先述したイム・ジュヒによるベートーヴェンの『ピアノ協奏曲第3番』。なるほど、彼女の技巧の切れ味は抜群であり、その音色はキラキラと輝いていて非常に明るく明晰、非凡な才能を感じさせる。しかし、当夜のベートーヴェン演奏においては極めて楽天的で陽性一本槍であり、気分の変化や表現の幅が乏しい感がある。チョン・ミョンフンはスケールが大きく深い響きでピアニストを上手く包んでいたが…。まあしかし、17歳には17歳の輝きがあり、その将来が祝福されているのは明白。「深みに乏しい」などと言うのも野暮というものか。今後に期待。
アンコールのシフラ編『トリッチ・トラッチ・ポルカ』における圧倒的なヴィルトゥオジティが胸のすくような快演であり、やはり今のイム・ジュヒの良さが生きるのはこういう曲なのだろう(もっともベートーヴェンの難しさはある意味別格であり、アンコールで演奏したようなショウ・ピースではない他のスタンダードなレパートリーも耳にしてみたい。ショパンなどは案外良い気がする)。 

後半の『英雄』は当然のことながらピリオド的な味付けは全くなく、昔ながらの「大オーケストラ」の音がする。しかし厚みのある響きながら決して響きがボッテリとせずに明快で流れも良い演奏である。ところどころでチョン的なパッションの注入があり(第1楽章展開部頂点での減速~リズムの強烈な踏み締めや第2楽章フーガ以降の重厚さ。この2箇所は聴いていて思わず息を呑んだ)、第3楽章ではトリオ部のホルンも無骨なほどにたっぷりと鳴らし、終楽章も骨太で大きな流れで聴かせる(逆に言えば変奏毎の変化はさほどでもない)。
全体として相当に良い演奏であったことは確かだが、他に何らかの新味があればなお良かっただろうか(余談だが、チョン・ミョンフンの全く忘れ難い実演での名演奏として記憶に残っているものがスカラ・フィルとの『運命の力』序曲。これを聴くとチョンは師匠筋のジュリーニから正しく「息の長い歌の歌わせ方」を引き継いでいると思わせるが、あれは全く稀有な演奏だった。何が言いたいのか、と言うとチョン・ミョンフンの本領は交響曲のようなカッチリした曲ではなく性格小品、何よりもオペラなのだ、と交響曲の演奏を聴くとちょっと思ってしまうところがある…)。