東京都交響楽団 ハイドン:オラトリオ《天地創造》 |藤堂 清
東京都交響楽団 第840回定期演奏会Bシリーズ
ハイドン:オラトリオ《天地創造》
2017年9月11日 サントリーホール
Reviewed by 藤堂 清(Kiyoshi Tohdoh)
Photos by 林喜代種(Kiyotane Hayashi)
<演奏>
指揮:大野和士
ソプラノ(ガブリエル、エヴァ):林 正子
テノール(ウリエル):吉田浩之
バリトン(ラファエル、アダム):ディートリヒ・ヘンシェル
合唱:スウェーデン放送合唱団
合唱指揮:ペーター・ダイクストラ
<曲目>
ハイドン:オラトリオ《天地創造》 Hob.XXI:2
ハイドンの大作、オラトリオ《天地創造》、たびたび演奏される曲ではないが、この数日前に高関健指揮する東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団が取り上げており、二つの団体による競演となった。こちらは、東京都交響楽団がスウェーデン放送合唱団をむかえての演奏というのがポイントだろう。両者は二年前にも共演しており、その時はこの合唱団の首席指揮者ペーター・ダイクストラの指揮で、モーツァルトのレクイエムをとりあげた。今回は、東京都交響楽団の音楽監督である大野和士の指揮というのも注目点。
この日のオーケストラは二管編成で、弦楽器の編成も小規模なものであった。演奏には、初演時の形態を具現化することを意図したピーター・ブラウン校訂のオックスフォード版(1995年出版)が用いられた。
序奏の出だしの音が暗めに、また重く、ゆっくりと響く。混沌を表わすのだからよいのだろう。続くラファエルのレチタティーヴォの言葉が遅めのテンポに乗り切れない感があったのは、ヘンシェルと大野の間の意思疎通が十分でなかったためだろうか。それに続き、合唱が極端に抑えた声で歌い出し、「光あれ!」で一気に爆発する。32人という小規模の編成から考えられないような声の圧力。この合唱団の力量を示した場面だが、少しばらけるところもあった。
第3曲は天使ウリエルのアリア、吉田は声自体は美しいが、力みが感じられ、高音が上ずり気味。オーケストラに対抗して大きな声を出そうとしていたのだろうか、前半の出番ではこういった場面が多かったのが残念。
第4曲、第6曲とラファエルのレチタティーヴォになるが、ここではヘンシェルの語り口、安定し、よどみがない。第5曲で林の歌うガブリエルが登場する。彼女にも吉田と同様に力みが感じられる。また、頭声を強く響かせるため子音がはっきりせず、言葉が聴き取りにくい。一緒に歌う合唱の言葉の方がよく分かる。
第2部第1場(天地創造第5日)、第19曲の後で休憩が入った。話のつながりからすれば、第2部第2場も終えてからの方が望ましかったのではないかと思う。前後半の演奏時間のバランスを考えた上でのことだろうが、第3部からはバリトンとソプラノの役割が、アダムとエヴァに変わるので演奏者にとっても親切ではなかっただろうか。
後半の方が演奏は安定感があった。独唱者が落ち着きを取り戻したことが大きい。
第3部のアダムとエヴァの歌では、林もヘンシェルの語り口に合わせ、無理のない歌を聴かせた。最後、第32曲の壮大な合唱で終わるが、ここでのスウェーデン放送合唱団はさすがというべきだろう。声の美しさ、ハーモニー、そして厚み、申し分ない。
全体として、オーケストラに関しては、重く、響きがのっぺりとした印象を受ける場面が多かったのが残念。合唱も、この団体としては考えられないようなズレを見せることがあり、以前のような完璧な技術が失われてしまったのかと思ったが、彼らのア・カペラのコンサートではおどろくべき精度を聴かせたので、この日は大野の指揮への対応がうまくできなかったことが考えられる。
万全の状態ですべて満足とはいかなかったが、この名曲をかなりのレベルで聴かせてくれたことに感謝したい。