東京交響楽団 東京オペラシティシリーズ 第99回|谷口昭弘

東京交響楽団 東京オペラシティシリーズ 第99回
[東響コーラス創立30周年記念公演]

2017年8月20日 東京オペラシティコンサートホール
Reviewed by 谷口昭弘 (Akihiro Taniguchi)
Photos by 池上直哉/写真提供:東京交響楽団

<演奏>
指揮:大友直人
ソプラノ:中嶋彰子
メゾ・ソプラノ:鳥木弥生
テノール:高柳 圭
ソプラノ:北原瑠美
テノール:加藤太朗
テノール:寺田宗永
テノール:北嶋信也
バリトン:大川博
バリトン:小林啓倫
バス:清水那由太
バス:金子宏
合唱:東響コーラス(合唱指揮:安藤常光)

<曲目>
芥川也寸志:弦楽のための三楽章《トリプティーク》
團 伊玖磨:管弦楽幻想曲《飛天繚乱》
黛 敏郎:《饗宴》
(休憩)
千住 明:オペラ《滝の白糸》から序曲、第3幕 (台本:黛 まどか/演奏会形式)

 

日本の作曲家の作品を集めた夏のマチネ・コンサート。前半は戦後の芸術音楽を牽引した「3人の会」(1953年結成) の作曲家、團伊玖磨、芥川也寸志、黛敏郎の管弦楽作品、後半は主にテレビドラマ等への作品を多く残す千住明のオペラからの抜粋という組み合わせである。

芥川也寸志の《トリプティーク》、第1楽章はオスティナートの中に時折現れる動機のやりとりの楽しさと、中間部の滔々とした流れがほどよいコントラストを形作り、コンサートを心地よくスタートさせた。透明な響きの第2楽章には、弦楽器の共鳴体を叩く箇所があり、これが聴覚の上でも「木」という存在を感じさせ、暖かさを与えてくれる。楽器を叩くといっても前衛的にならないのは、周りの音の文脈によるものなのだと実感することになった。第3楽章は変拍子や風変わりなアクセントで、膨らみのある音が聞こえてくる。日本の多楽章の作品で3楽章は祭りを扱うのは定番だが、必ずしもそういった情景を浮かべずに聴いている自分を大友直人指揮の演奏で発見することになった。

團伊玖磨の管弦楽幻想曲《飛天繚乱》は、芥川作品とは打って変わって、総天然色のオーケストラ。20世紀前半にオーケストレーションの妙技を聴かせたストラヴィンスキーやレスピーギを想起させ、一方ではオリエンタリズムも垣間見える。フラッター・タンギングも駆使した全音音階のフルート独奏が見事。佛を賛えて天空を舞う天女を描いた壮大な一大絵巻を堪能した。

ここまでオーケストラのダイナミズムを十分楽しんだつもりでいたが、黛敏郎の《饗宴》は、さらにエネルギッシュな鳴りだった。特に第2楽章ではサックスの音も激しくサンバのリズムも飛び出してくる。しかしジャワのガムランかと思うような柔らかなオスティナート、縮まる間のリズムなど、さまざまな要素も織り交ぜながら、全体的にはスコアを塗りつぶすような、吠えるオーケストラ、音響体のエネルギーに圧倒された。

千住明によるオペラ《滝の白糸》は、泉鏡花の小説を原作としている。女水芸人が金沢で起こした殺人事件と、その裁判の検事—かつて女芸人が検事となるための学業を金銭面で支えた少年の成長した姿—の間に展開する物語といえるのだろうか。過去の経緯も含めて、台本からも音楽からも、不遇の人生に苛まれた主人公たちの姿、裁判の傍聴人、検事の両親なども登場し、それぞれが物語に絡み、合唱はそれらをまとめていく。
音楽的にも台本的にも、この話には、主人公たち自身の力ではどうにもならない境遇と運命などをドラマチックに描く可能性が見えてくる。確かに舞台上では、演奏会形式上演とはいえ、あちこちから歌い手が立ち上がって歌い、演劇的要素があった。しかし全体として音楽はマイルドで、ふくよかで、やさしい。聴き手を導く招きを感じさせる音楽は、前半の作曲家たちのアプローチとは大きく違っていた。やはりそれは、作曲者である千住の特質が現れたと見るべきなのだろうか。
もし今回の公演全体を貫くものがあるとすれば、例えば前衛とは違った、それほど抵抗なく多くの聴衆に受け入れられる戦後の日本の大規模編成の作品ということなのかもしれない。ただ前半と後半の作品では時代もアプローチも、作品のメディアも表情も大きく異なる。やはり2部構成による、一種のガラ・コンサートのように考えればいいのだろうか。そう考えれば、休日の午後の一時を楽しく過ごせたひとときだったと振り返ることができる。