ダニエル・シュー ピアノ・リサイタル|丘山万里子

第125回スーパー・リクライニング・コンサート
ダニエル・シュー ピアノ・リサイタル

2017年5月17日(昼公演)Hakuju Hall
Reviewed by 丘山万里子(Mariko Okayama)
写真提供:Hakuju Hall

<曲目>
ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ 第31番 変イ長調 op.110
シューベルト:4つの即興曲集 D.899
 第1曲 ハ短調
 第2曲 変ホ長調
 第3曲 変ト長調
 第4曲 変イ長調
シューマン:トロイメライ op.15-7

 

2015年浜松国際ピアノコンクール第3位、ランランやユジャ・ワンを育てたゲイリー・グラフマン、エレノア・ソコロフの教えを受け、カーティス音楽院で学ぶアメリカ生まれの19歳。

最初のベートーヴェンに彼の美点はすべて現れていた。
第1楽章冒頭、con amabilità のハーモニクスをまさにほんのり甘く優しく響かせ、それだけでこの人の仄かな微笑を含んだような音の魅力に引き込まれる。テンポはゆっくり目。続く左手のシンプルな伴奏音型(特に和音の連打音が実に柔らかく敏感なタッチで、うっとりだ)に浮かぶ旋律もcantabile molt espressivoそのもの、なだらかな弧を描いて、よく歌う。それでね、それでね、とそっと語りかけるみたい。その口調、かなり溜めがあるが、想いのたけを伝えるようなニュアンスで自然。そして高音部からキラキラと白雲母のように輝き降ってくるアルペジオのクリスタルな美しさ。
ここまでで彼が非常にナイーブな心と潤むような眼差しを持ったピアニストであることがわかる。
一転、スケルツォ風第2楽章は両サイドからの和音のつかみが引き締まった音を生み、キリッとしたリズムを刻む。その中にも柔らかい弾力(バネ)があって、軽快だ。スフォルツァンドの打ち込みも効いている。
終楽章序奏には、第1楽章で聴かせた語り、もっと抒情に滲んだ、濃やかなペダリングでぼかされた左の和音連打の上で、たっぷりした嘆き節が聴かれる。のだけれど、ちょっともたれるかな、という感じ。気持ちはわからないでもないが、いちいち念を押さずにすっと行った方がいい時もある・・・。が、ピアニシモから忍び入るように身を起こしフーガに入る呼吸は素敵だ。フーガは流麗、かつダイナミックに展開、左のユニゾンの推進力も力強く、華々しく最後を締めくくった。

つまり、美点は響へのセンスの良さ、心を込めてよく歌うこと、十分なダイナミクス・レンジ。
ただ、もたれる、と書いたように、同じ口調が繰り返されると、聴き手にも好みが出てこよう。

シューベルトは、やはり節回しの粘りが気になること、ダイナミクスの配分がどれも単一であったこと、和声の移ろいに音色の変化が乏しいこと、など、物足りなさが残る。この選曲、ポピュラリティでファンを掴むには良いかも知れぬが、彼の持ち味をアピールするにふさわしかったかどうか。

「トロイメライ」はベートーヴェンのように思い切りロマンティックに弾くかな、と思ったらあっさり終えた。

課題はシューベルトに挙げた通り。ある種ウェットな感性を生かしての成長を待ちたい。