注目の1枚|ヴィブラフォンのあるところ 會田瑞樹|丘山万里子
text by 丘山万里子(Mariko Okayama)
ALCD-113
ALM RECORDS
曲目
【ChapterⅠ 軌跡】
1. 薮田翔一:Billow 2 (2015)
2. C.ジェズアルド(白藤淳一 編曲) :Luci serene e chiare (1596/2016)
3. 渡辺俊哉:Music for Vibraphone (2014/2016)
4. 横島浩:華麗対位法 Ⅲ-2 by Marenzio (2015)
5. 湯浅譲二:ヴァイブ・ローカス (2015)
【Chapter Ⅱ 超越】
6. 川上統:Wolverine (2014)
7. 福井とも子:color song Ⅳ -anti vibrant- (2014)
8. 木下正道:海の手Ⅲ (2016)
9. 権代敦彦:光のヴァイブレーション (2016)
10. M.マレ(會田瑞樹 編曲):夢見る人 (1701/2016)
録音:2016年12月13~14日/収録場所:三鷹市芸術文化センター
価格:2,800円
2012年ヴィブラフフォン・ソロリサイタル以来4回にわたるシリーズで注目を集める気鋭の打楽器奏者、會田瑞樹のアルバム「ヴィブラフォンのあるところ」。2014~16年に初演した日本の現代作品にジェズアルド、マレ(編曲)をあしらった10曲である。
ヴィブラフォンソロならやっぱり奏者のパフォーマンスが見えないとなあ、身振りと音は直結するし、特有のエコーの波に絡め取られて退屈するかも、と思って聴き始めたが、どうして。楽しめる。
中でも筆者が面白く聴いたのは渡辺、川上、福井の3作。
渡辺はペダルの使用不使用を巧みに組み合わせ、低音域の鍵盤下に紙を挿入とかで、響きに多彩なニュアンスを施し、水族館の水槽の中の小さな回遊魚みたいな人工幻想美(海じゃないのだ)を創り出す。
川上は雪原に生きるイタチ科の小猛獣を投影させたそうで、なるほど、鍵盤の引っ搔き音やはしっこい動き、分かりやすい音のラインとパーカッシヴな打音が強いイメージ喚起力を持つ。
福井は弦楽器のボディを叩くような打撃音(見えないから何をやっているのかわからない)を交え、あれやこれやの音の様相に小さな歌なども織り込んで音のおもちゃ箱。
と、この3作はヴィブラフォン「らしさ」を抑えたアプローチ(福井はantiと宣言)が奏功している。
その種のひねりをせず、「らしさ」をそのままに聴かせる湯浅、木下、権代は、湯浅の書法の安定感、木下の音と「間」(飛び石を踏んで行くような冒頭から最後の音波まで)の扱い、権代の光の微粒子のさんざめき、などそれぞれの相貌だが、演奏時間9~17分を超えるだけに、中途からいささか耳が散漫に。奏者が見えないと、音と音の空隙を埋めたり、軌跡や行方を追う頭の働きがかなり低減してしまう。のは筆者だけか?ライブで総動員される享受の機能が目隠し状態になった時、音はどのように振る舞うか、いや、作曲者は純粋に音だけでデザインするはず(権代はこのアルバムについて、「音だけで勝負する、僕の今の目標が達成されたーーー」と言っている)、ならば・・・云々についてはここで簡単に論議できない。
簡潔に切り上げた薮田、横島(マレンツォ原曲マドリガル)は小粒で良い味を出している。
ジェズアルドはオルゴールとかオルガンみたいな響が素敵、マレは甘くセンチメンタルでこれぞヴィブラフォン、をたっぷり。
多様な方向性の作品群をごく自然に、的確に鳴らす會田のセンスと手腕。
作曲家たちとの協業の成果を問う気概に満ちた本作、我らが同時代の最前線を肩肘張らず知るにもってこい。