東京オペラ・プロデュース第100回定期公演《ラインの妖精》|藤堂清
東京オペラ・プロデュース第100回定期公演
J.オッフェンバック作曲:《ラインの妖精》
2017年5月27日 新国立劇場 中劇場
Reviewed by 藤堂 清(Kiyoshi Tohdoh)
Photos by 林喜代種(Kiyotane Hayashi)
<スタッフ>
指揮:飯坂 純
演出:八木 清市
<キャスト>
アルムガート:梅津 碧
コンラート:羽山 晃生
ヘドヴィヒ:羽山 弘子
フランツ:星 洋二
ゴットフリート:北川 辰彦
妖精:辰巳 真理恵
農夫:石塚 幹信
東京オペラ・プロデュース合唱団
東京オペラ・フィルハーモニック管弦楽団
序曲はおなじみのメロディー、「ホフマンの舟歌」で始まる。ご存知、オッフェンバックの未完のオペラ《ホフマン物語》、ヴェネチアの場面での歌。
《ラインの妖精》は、オペレッタを活動の中心としていた作曲家自身が上演に携わった唯一のオペラ、1864年にウィーンで初演された。この時の上演は歌手の体調不良などのため、かなりカットした形となった。その後散逸していた楽譜や、オッフェンバックがパリ上演(実現せず)のために用意していた版などをもとに、ジャン・クリストフ=ケックによる校訂譜が作成され、2002年に蘇演、その後、フランス、ドイツなどで取り上げられている。
これまで上演機会の少ないオペラを積極的に取り上げてきた東京オペラ・プロデュース、記念すべき第100公演をこの曲でかざる。もちろん日本初演となる。
オペラは4幕だが、この日は第2幕と第3幕の間に休憩を挟む2幕仕立てで行われた。
舞台は、宗教戦争の時代ライン川の近くの農場、農場主ヘドヴィヒ(女性)と農民が戦場となっていない農場の収穫を祝っている。娘アルムガートは戦場へ去った恋人フランツを思い、彼への愛を歌い続ける。この地には、歌いすぎた娘は妖精となり森に来る人に死をもたらすという伝説があった。そこへコンラート率いる兵が侵入、略奪する。フランツもその中にいるが、怪我のため記憶を失っている。コンラートはアルムガートに歌を強いる。彼女はフランツの記憶を呼び覚まそうと歌い続け、息絶える。
アルムガートを想っていた狩人ゴットフリートとヘドヴィヒは彼女を悼んでいる。ここで、ヘドウィヒは娘の父親のことを彼に語る。そして妖精になったと思われる娘を探しに森へ向かう。アルムガートを思い出したフランツが現れ、愛を歌うが彼女は戻らない。その悲しみを振り払うため、兵とともに城攻めへと向かう。コンラートはゴットフリートに城への道案内をさせようとする。ゴットフリートは兵を妖精の森へと導きアルムガートの仇をとる考えでそれを受ける。アルムガートは死の淵から甦り、フランツを助けるために後を追う。
妖精たちにまじっていたアルムガートは母ヘドヴィヒに遭い、森から出るようにと告げ、さらに奥へと進んでいく。ヘドヴィヒの前にゴットフリートに案内されたコンラート等が現れる。そこでの話から、コンラートこそが彼女をだまし娘を産ませた男だと知る。妖精たちがコンラートとフランツに呪縛をかけ、彼らは動けなくなる。
その呪縛から逃れた二人が、ゴットフリートに報いをと捕えに行く。フランツの前にアルムガートが現れ彼女の死が夢であったと告げ、二人は愛を確かめる。ヘドヴィヒが捕われコンラートの前に連れてこられるが、彼女はアルムガートが彼の娘であることを告げる。死んだと思われていたアルムガートがフランツとともに現れ、すべてが夢であったと明かす。ともに逃げようとする彼らに怒り狂った兵が迫るが、妖精たちの魔法で救われ、皆で〈祖国の歌〉を歌うところで幕となる。
ストーリーは以上のように都合よくハッピーエンドに終わるのだが、音楽面では随所に聴きどころがある。
これまでオペレッタの形式で作曲してきたオッフェンバック、新たな分野への挑戦ということで力のこもった作品となっている。名作《美しきエレーヌ》とほぼ同時期の脂の乗った彼の筆から、数々の魅力的な曲が生みだされている。
第1幕では、まずアルムガートがフランツの不在を悲しむ歌、技巧的なもので細かな音の動きが際立つ。この幕の後半のコンラートの〈乾杯の歌〉、フランツのアリアも印象的、とくに後者の高音域を要求される部分はテノール歌手の力が試される。フィナーレで歌われる合唱、〈祖国の歌〉はこのオペラの中で何度も登場する。
第2幕の前半では、ヘドヴィヒがアルムガートの父親のことを明かし、妖精になった娘を追う決意を歌う。後半には、コンラート、フランツ、ゴットフリートが三人三様の気持ちを歌う重唱がある。
第3幕は妖精の場面で始まる。ここで序曲のメロディーが流れる。幕の後半ではフランツの歌が難曲、高い部分で強い声を要求される。
第4幕では、コンラートとヘドヴィヒの二重唱が二人の複雑な心境やその変化を表わしている。最後の場面で繰り返し歌われる〈祖国の歌〉が印象的。
校訂譜から演奏する曲を選択するという作業が必要であったり、オペレッタであればセリフで進む部分が冗長に感じられるといったことはあるかもしれないが、全体としても魅力的なオペラといえる。
歌手に関しては多少のデコボコはあったが、アルムガートの梅津、ヘドヴィヒの羽山弘子、ゴットフリートの北川は安心して聴くことができた。コンラートの羽山晃生も充実。フランツの星は苦労しているところもあったが、この役がかなりの難役であるためであろう。
初めてのオペラへ取り組むこの団体の熱意と努力におおいに感謝したい。第100回という記念すべき公演にふさわしいものであったと思う。